終わりの三形態


それは喧嘩別れというもので、基より擬似的な保護者と被護者の関係でしかなかった二人では、起きて当然の終末でしかなかったのかもしれません
ともかく高屋敷君と安西先生は一緒にいることを止めてしまいました
そうして二人が会わなくなってから、半年経ったある日の出来事
安西先生がいつも通り、退屈そうな顔で大学校内をぶらぶら歩いていた時。学生の騒ぎ声に何とは無しく顔を横向けたら、そこにはかつての友人の姿がありました
とはいえその姿は以前より縦に伸びていて、顔付きもどこか皮肉気で、何と言うか、普通のチャラい男子大学生になっていました
安西先生は足を止めてかつての友人を眺めたまま、悲しい顔の一つでもしてみようかと少し考えていたようでしたが
結局、特に面白くなさそうだったので、無表情のままその場を通り過ぎました。



「もうこの辺で良いですかね」

そう言って安西先生が崖から飛び降りたのは一週間前の事。そう言って安西先生が死んだのは一週間前の事。僕は呆気に取られてなにがなんだか解らなかったけど、今は思う、なにもかも意味が解らない!
あの言葉の意味が解らない、この辺でとは、あの日ハイキングに誘われたのは死に場所探しだったということ?なんで飛び降りたの?死にたかったの?って言うか、死ぬんだ?安西先生って死ねたんだ?
僕は葬式が終わってからも疑問符が頭の中にぐるぐるぐるぐるしているものだったから嫌になってしまい、生徒会長に聞きに行った。安西先生の、あの一連の行動にはなんの意味があったの?
高屋敷君、それはね、君を解放する為の行動だったんだよ。君をいつまでも自分の傍に置いている訳にはいかないと、安西先生はご存知だったんだ。だから、ご自分を殺して君を解放したんだよ。本当はずっと一緒にいたかったんだろうけれど、君の未来を考えての行動だったんだ。もうこの辺で良いですかねという言葉は、安西先生なりの謝罪と感謝の言葉だったんだよ。今までとても楽しかった、今まで君を付き合わせて悪かったってね。だから、高屋敷君、これは俺の頼みだけどね、安西先生の為に泣いて差し上げてくれないかな

僕は泣かなかった。すごく泣きたかったけど泣かなかった。



嫌だと喚いて縋り吐いてきたけれど、私はそれを突き飛ばした。ちっとも可愛くなかったから。そう、高屋敷君はもう可愛くなくなってしまった生き物なのだ。少し眼を離した隙に、もう大人になっていた。そんなものは要らないのです
泣き叫ぶのがとても煩い。低くなった声は気分が悪くて私は益々この生き物を遠避けたくなる。自分が悪いくせに、まだ泣けばなんとかなると思っている。汚らしい、穢れたくせに、まだ子供のつもりでいるのか。グロテスクな生き物だ
ひいひいと泣きながらこちらを振り仰ぎ、また手を延べてくるから振り払って踵を返す。不細工な悲鳴等躊躇の欠けらも引き起こさない。自業自得です、自分がえらんだことじゃないですか。貴方が私よりも、そちらを選んだというだけのこと。別にそれを怒る気などありません、そちらはそちらで、とても良いものですからね
しかし、ならば触るな。そちらに汚れた手で私と手を繋げるとでも思っているのか。汚らしい高屋敷君、もう二度と会うことはありませんよ。
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