安西先生と高屋敷君の 〜アツアツ☆紅茶のイレ方講座〜

「無知蒙昧な皆さんこんにちは、安西先生です」
「高屋敷でーす」
「普段はクソの役にも立たないことばかり連ねているので、たまには日常の役に立つ事を 常識知らずな皆様に僭越ながら刷り込んでさしあげようと講座を開きました」
「ちょっ…言葉遣いと慇懃無礼に気を付けてくれない?」
「と言っても、大分フィーリングな淹れ方なので、正式なやり方はどっかの何かで覚える ようにね」
「そんなのでいいのかなあ…」
「良いのです。それより君はさっきからぐたぐた言うばかりでまるでアシストしてないじ ゃありませんか。役に立たないなら放り捨てますよ」
「はわあわわ!ちゃんとお手伝いするから捨てないで!
んと、じゃあ用意するもの一覧ご紹介ですっ

紅茶葉

ティーポット・ティーカップ
やかん
茶漉し
マグカップ
計量カップとか沢山入る容器
電子レンジ
温度計

使うものはこれで全部だよ」
「では上から順に解説しましょう。面倒なので簡単に…詳しく知りたきゃ他を探すんです ね」
「一番はお茶の葉だねー」
「ブロークンといって、短時間で抽出出来るよう葉を細かく刻んだ茶葉もありますが、今 回は普通の全葉フルリーフを使います。因みに、種類はストレートのアールグレイですよ 」
「アールグレイは柑橘系の風味でおいしいですよう」
「次は水ですが…まあ、日本に住んでるならば水道水が一番です。軟水ですし、空気を多 く含むのでミネラルウォーターよりよほど良いですね。私は蛇口に取り付ける節水シャワ ーを使っています。これがまた水に空気が混ざって良い具合になりましてねえ」
「お水に空気が入ってたらなんかいいことあるの?」
「それはポットと一緒に解説しましょう。まずポットは陶器製の丸いものを使いますよ。 鉄製のものは紅茶のタンニン成分と鉄分が結び付いて変質するからよくありませんし、ガ ラス製は保温力がやや劣るので避けるのが無難でしょう。丸いものを選ぶのは、湯を入れ た際に茶葉が上下に踊るジャンピング現象を妨げない為。先程言った水に空気を含ませる のも、このジャンピングが起きやすくなるためです」
「ジャンピングが多いとおいしいってことだね。…あ、鉄がダメならやかんも…」
「ホーロー引きのものが良いでしょうね。まあ、こちらはそんなに気にすることはないと 思いますが」
「はーい。えと、次が」
「茶漉しとマグカップと計量カップと電子レンジと温度計は何でも良いです。強いて言う なら壊れていないこと」
「さ、最低限ー…!」
「良いんですよ。さて、解説はこれでお仕舞いです。実践に入りますよ」
「はーい」
「まず始めに、ポットを温めるお湯を作ります。これはマグカップに水を入れて電子レン ジに突っ込むだけですね」
「いきなり手抜き感が。んっと、ポットを温めておくのは、淹れる用のお湯を注いだ時に 温度が下がらないようにする為ですよう。陶器って結構冷たいからね」
「突っ込んだら紅茶を入れる用の湯を沸かします。そうそう、淹れる湯が沸いた時にはま だポットが温まってないとか、温める湯が冷めてしまったなんて事態にならないよう、電 子レンジのワット数と温まる時間は大体分かっておくように」
「えとー、入れるお湯はどのくらい?」
「基本は人数分ですから、今回はカップ二杯分です。因みに、ポットは大抵揃いのカップ で三杯分のお湯が入るものが多いですよ」
「二杯二杯…よいしょ。火にかけていい?」
「はい。ああそうそう、強火で早く沸騰させた方が空気が抜けませんよ。とはいえ、火の 大きさがやかんの底からはみ出てはいけません。熱量が無駄になりますからね」
「うあーい」
「…ん、温めるお湯が沸騰しましたね。火傷に気を付けてポットに移しましょう」
「僕んちの電子レンジ、オート加熱だと沸騰する前にチーンって鳴るんだけど」
「あー、あれは水蒸気の量で判断してますので、沸騰させたいならマグカップに皿でも乗 せて温めると良いですよ」
「へー」
「マグカップ一杯だとポットの半分くらいの水量なので、軽く揺すってポット全体を温め るようにしましょうね」
「あ、淹れるお湯沸いたみたいだよセンセ」
「ん…いや、注ぎ口から水蒸気が出始めた頃はまだ沸騰していませんよ。しかし、そろそ ろ温度計で計り始めた方が良いですねえ」
「そうなのー?…ホントだ、まだ80度くらいだね」
「紅茶の成分は90以上の温度で抽出されます。五円玉大の気泡が出れば100度らしい ですが、蓋を開けて覗いても水蒸気で見えませんし熱いですし、音で判断するのも正確と は言えません。素直に温度計を使いましょう」
「紅茶は温度が大切だっていうしね」
「そろそろ温め用の湯をマグカップに戻し、ポットに紅茶葉を入れましょうか」
「ティースプーン一杯が一人分です。だから今回は安西先生と僕で二杯。んでポットの為 の一杯ー」
「はいストップ。最後が余計です」
「え?でも有名じゃない。ポットの為の一杯…」
「イギリス式ではね。イギリスは硬水なので、抽出力が低い為一杯余分に入れます。しか し日本は軟水なので、不要なんですよ」
「へー…知らなかったです」
「ついでに、一人分がティースプーン一杯というのも決まっている訳ではありません。茶 葉の種類や個人の好みで変えても良いのです…例えば私なんかは、アールグレイならば薄 めが好きですね」
「はえ、なんか適当なんだね…でも僕まだ自分の好みとかわかんないよ」
「まあ始めはそんなものでしょう。でしたら、基本に則った濃さで作るのが良いかも知れ ませんねえ。それを指軸にして、好きな味を探せば良いと思いますよ」
「じゃあ、二杯入れるね」
「ええ…ん、丁度淹れる湯も百度です。茶葉はポットに入れましたね?熱湯を注ぎましょ う」
「うー」
「火傷をしないように…ああ、因みにこの時高い場所から注いで湯に空気を含ませろと指 示される事もありますが、湯温が下がるような気がして私はやりません」
「入れたよー」
「ご苦労様。さて、フルリーフの場合蒸らし時間は三分が基本です。これも好みで変えて 構いませんよ」
「ブロークンだと基本何分?」
「二分と言われています。ところで私はこの蒸らしの際、蓋を取り去ったやかんの上にポ ットを乗せて置きます。保温ですね」
「そういうところがなんかこう、紅茶をいれる格好よさが薄れるね。親ガメの上に子ガメ が乗ってるみたいでなんかお間抜け」
「美味しくはいるのが最重要ですので」
「まーそうなんだけどー…えっとぉ、三分三分。タイマーセットできたです」
「では、この間に茶菓子でも用意しましょうか」
「僕クッキー焼いてきたよ。レモンクッキーなのー」
「これはありがとう御座います。お返しにこれあげますよ」
「う?…わ、なあにこれ?!かわいー!ハートが瓶に一杯詰まってるですー」
「角砂糖なんですよ。色も付いていて綺麗でしょう?紅茶に使って下さいな」
「うん!ありがと安西センセ♪」
「さてと、茶漉しを用意して…計量カップに乗せましょう」
「あ、僕の持ってるポットって、中の注ぎ口のとこに茶漉し網付いてるよ?それ使うなら 茶漉し器いらない?」
「あー…そうですね、まだ時間もあるから解説しますか。今回は茶葉を取り除く為、茶漉 しで漉しながら一度他の容器に移します。先程ポットを温める用の湯をマグカップに戻し ましたが、あれはあの湯を使ってポットに残った茶葉を洗い流す為でして、水で流してポ ットの温度を下げないようにします」
「なんで?まだポット使うの?」
「というより、ポットに紅茶を戻すのです。冷えたポットに戻したら紅茶が冷めてしまう でしょう?」
「あー」
「ポットに戻さず別途用意した保温ポットに移す場合なら、水で洗って構いませんけどね 」
「あれ?でもなんでわざわざ別容器に移してまた戻すの?直接カップに注いじゃだめ?」
「勿論それでも良いですよ。ただ、それはすぐに飲んでしまう時だけです。例えば、一人 で三杯分飲むよう入れた時、直接カップに注ぐことにしたとします。そうすると始めの一 杯を飲んでいる間、ポットの中にはまだ茶葉と二杯分の紅茶が残っていますが、どうなる と思います?」
「…あ、そっか。三分以上抽出しちゃうね」
「その通り。渋くて美味しくなくなってしまうでしょう。だから、先に除けておいた方が 良いと思いますよ」
「うむー、じゃあ僕のポットも飲み切りの時には便利だけど、沢山入れてポットに戻した い時は洗うのが面倒なんだね。保温ポット用意した方がよさそうですー」
「移し替えない場合の注ぎ方にも注意点がありますが…アラームが鳴っているので止めに にしましょう。面倒ですし」
「えー教えてよ」
「だから、他で調べなさい。温室にテーブルを出してきますから、今言ったようにポット から出してまた戻しておいて下さいね」
「むう、はあーい」
「おっと言い忘れました…ポットから注ぐ時は最後の一滴まで落とすこと、茶漉しからも 同じです。では任せましたよ」
「はーい。…えとですね、最後の一滴をゴールデンドロップっていって、一番風味がある って言われてます。金の一雫なんて、カッコいいこと言うんだねえイギリスの人って

 …

 ……

 ………

 …なかなか雫切れないなあ…」
「まだやってんですか高屋敷君、もうテーブルにはクロスを敷いて茶菓子もセッティング しましたよ?早くいらっしゃい」
「待って待って今ポットに戻すからー」
「カップやらは持っていきますから、終わったらいらっしゃい」


「終わったよーセンセー!冷めないうちに飲もー!」
「走らないで下さい。嫌なフラグ立てますね君は」
「こぼす訳ないでしょ。僕だってそれくらい気を付けるよ、はいどーぞ」
「それは何より…さて、そんな感じに無事紅茶を淹れることが出来ました。どうでしたで しょうか」
「偶には役立つことをやりたかったんだけど、ぶっちゃけ興味無い人にはやっぱり役立た ずな内容だったねっ♪」
「日本人なら緑茶飲めって話ですよ」
「あっははー!まあ僕はおいしくお茶できたからいいけど……ごっはあっ!?!
「良い血反吐です高屋敷君。何なら褒めてあげても構わないくらいにねえ」
「お、おごあぁぁ…なにがなんでも死にオチにしたがるの、いい加減、に…し………」
「…ではやる気を出してもう一度

 私こと安西先生と高屋敷君がお送りした、紅茶の淹れ方講座は如何でしたでしょう か?
 これを機会に、皆様が多少なりとも紅茶に興味を持って頂けたら幸いです



 勿論、毒を入れるまでが紅茶の淹れ方ですよ☆」


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