僕が『西洋の怪奇』だなんて本を読んでいたせいか、安西先生が真面目くさった顔でこんな事を言い出した

「相模先生は人狼なんですよ」

手にしていた本を取り上げられて、僕は文句を言おうとしたけど
その前にお菓子を口に放り込まれたので、なにも言えないまま続きを聞く羽目になった

「学校長はドラゴンで、沢津橋先生は魔女、会長君は…人造人間フランケンシュタインです」

もぐもぐ口を動かしながら僕はなんとなく納得をした
言われてみれば、皆そんな感じがしたから
ごくんと飲み込んでから聞いてみる

「安西先生は?」

なのに先生はそれを無視して

「…君は、ウサギ人間です」

だとか訳の分からないことを言っている。いないよそんな怪物
仕方が無いので僕は僕の考えを言ってみた
正直これは自信がある
自信があり過ぎて、怖いくらい

「僕は吸血鬼だと思うなあ。ぴったりじゃん」

でも、安西先生は

「違いますよ、私は…私は、ドッペルゲンガーです」

全然ピンとこないものに自分を重ねた

「ドッペルゲンガー?」
「ええ、そうですよ」
「なんで?それちょっとずるい。それ、別に先生じゃなくてもいいじゃない」
「いいえ、だって、私は本当にドッペルゲンガーですから」

なに言い張ってるのさ。全然面白くないよ

「本物を殺して入れ替わった、同じ人間」

むくれる僕へ念を押すみたいに、口を歪めて呟いた
皮肉気に笑っている様にみえるけど
だけど、どうして、悲しそうなの?

「じゃあ、今ここにいる安西先生は、本物じゃないの?」
「ええ」
「本物はどうしたの?」
「だから、死にましたよ」
「なんで?」
「殺したからです。私が」

ああ、本当に面白くないね

「もういいよ。つまんない」
「君にとってはつまらなくても、私にとっては…私達にとっては、とても重要なことです」
「…達?」

本物と、今の、安西先生ってこと?

「私が殺したのは…さて、本当に本物だったのでしょうか?」

なんのことを言ってるのか解らない
解らないから、聞いてしまう

「ドッペルゲンガーだった私は、前に居た【安西聡美】を殺して、本物になりました。でも…」

でも?

「でも、私もまた私のドッペルゲンガーに殺されて、その私と同じ人間に入れ替わられてしまうような気が……そう 、それを繰り返してきたような…そんな気がしてならないのです」

ああ、つまらない、面白くない
悪い冗談だ。全然笑えない
聞いただけ損をしたよ
僕はとっても嫌な気持ちになった
だから、安西先生を睨んだんだけど


「…まあ、同じ人間なら何も変わりませんし、別に良いですかね」


安西先生は全然気にせずそう適当に言い放ったあと
にやにやしながらどこかへ行ってしまって
僕はぽつんと一人、さっきの会話を思い出していた

きっと最初から最後まで、僕をからかうウソなんだけど

死んでいった安西先生と
死んでいく安西先生と
今ここにいる安西先生のために、僕はお祈りをした。

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