「安西先生、なあにこれ。サプリ?」
「まあそんなようなものです。薔薇の精油が入ったゼラチンカプセル」
「バラ?」
「薔薇は婦人病に効きますからね。しかし、これはどちらかといえば、飲む香水と呼びたいですねえ」
「飲む香水って、うっそだぁ。そんなの聞いたことないよ」
「おや、君が香水に詳しいとは思いませんが?個人差はありますが、本当ですよ。なんなら君も一粒どうですか」
「飲んでも死なない?」
「死にませんよ、はいあーん」
「あーん」
「まあ、一日三回飲んで二ヵ月後に香ったら大成功なんですが…君の場合、ポプリドールのようにすぐ香るでしょう。なんせ体臭が普段から甘ったるいミルクの匂いですから」
「そんなことないよ!夏だし!暑苦しい男の汗の臭いしてるよ」
「そうは思えませんけれど」
「少なくともー、全然バラの匂いしてこないです。やっぱ飲む香水とかウソじゃないの?」
「昔から、口にすることで香るようになる何某かは求められてきました。中国何かが有名ですね。赤ん坊の時から桃だけ食べさせて育てられる女の子は体臭が桃になり、果ては尿すら桃の芳香。楊貴妃の時代にも体身香という名の飲む香料が流行っています。材料は丁子、麝香、霊陵香、桂皮。一日にこの丸薬を十二個も口にしないといけませんから、なかなか大変だったようですね」
「桃はともかく、後のやつはなんか身体に悪そうだね…麝香って鹿の内臓でしょ?」
「ええまあ…どれも漢方といえば漢方ですけれどね。その点、薔薇はハーブと呼ばれてて爽やかなイメージなのでねえ、身体にも良いし良い匂いはするし、一石二鳥でしょう?…ほら、薔薇の匂いがしてきましたよ」
「え、うわ…本当だ。でも急激過ぎて逆に信じられないんだけど」
「まあ通常この速さで香ってくることがあり得ないのは否定しませんよ。でも良いじゃないですか。部屋に置いておけば芳香剤になりますから」
「そんな人間扱いされないのヤダ」
「他に何の役に立つというのです、お馬鹿さんの君が?」
「色々あるよ!えっと…ご飯作るとか」
「作れるものといったら生ごみだけでしょうに」
「そんなに僕のこと嫌いか」
「好きですよ?そうでなきゃ遊んであげたりしませんよ。だから君も好意に答えて大人しくお座りしてりゃ良いんです。ほらもう一粒」
「いやだよ!いやだよ!なんか飲まされる度に人間から乖離させられるような気がするからいやだよ!」
「…そうですか、我儘ですね。我儘な子は、仕方がない、力尽くでも言うことを聞かせるしかありません。さあ身動きしないお人形になるが良いですよ!」
「ぐぎゃげっっ!!?」
「これで良しと。大丈夫ですよ、ちゃんと可愛く飾ってあげますから。…ああそれにしても、薔薇も良いですが、やっぱり君には死臭が一番似合いますねえ、高屋敷君?」
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