「……マズい……安西先生が帰ってくる前になんとかしないと。でもどうなんとかすればいいのか全然解んないや…」
「そういう時はどうすれば良いと思います?」
「全力で逃げる」
「ああそうですか、悪い子ですね高屋敷君は」
「うわー!!?」
「全力で謝ると言えば少しは考えてあげたのに…自業自得ですよ。さあこの豚の子宮を頭から被って窒息死しなさい」
「ごめんなさい!ごめんなさい!悪気があってやったんじゃないんだよう!」
「ああ、そういえば何をやったのです?そこは見ていなかったのですよ」
「ううう音もなく出てくるんだもん、どこから見てたのかなんて知らないよ」
「何とかしたいがどうにもならない辺りです」
「ん…あのねー、このセンセのパソコンで遊んでたんだけどねー、起動しなくなっちゃった」
「私が手ずから首を絞めて良いですか?」
「わざとじゃないんだよー!!なんにもしてないしー!!」
「何にもしていなかったら起動しなくなる訳がないでしょうに。そもそも前に触るなと言ったじゃありませんか、どうして君は言いつけを守れないのです」
「安西先生は言いつけが多いんだよ!夜は八時に寝ろって、幾つだと思ってんだよ!?」
「今日は六時に寝ることになりそうですね?でも、八時に起きろという言いつけは守らなくて良いですよ、永遠にねえ」
「すいませんでした、ディスプレイ振り被らないでください。いくらCRTじゃなく液晶でも死にます」
「全く…仕事のデータが復旧出来なかったら本当に殺しますからね。君の脳をHDD代わりの記録装置に再利用しますからね」
「ひいい、でもホントに僕なんにもしてない。ソリティアやってただけだよ」
「嘘を言っても始まりません。素直に海外エロサイトを見ていたと言いなさい」
「見てないよ!仮に見ようと思ってもなんで大学で見なくちゃいけないんだよ!?」
「それはほら、いつ人が来るかというスリルで…」
「音もなく現れたり引き出しや戸棚から出てきたりする知り合いがいるのにそんな危険犯せるか」
「おや、本当に起動しませんねえ…FDが入っているでもなし、自動再生データの記録媒体もなし…ソリティアをやっただけで起動しないとは、君は壊滅的な料理下手に加えて壊滅的な機械音痴のスキルも身に付けたんですか?」
「それをスキルと呼べるのかは知らないけど」
「あっちの業界ではスキルなんじゃないですかねぇ」
「どっちの話だろう」
「ん、ん、ん…セーフモードでは……どうですかね」
「先生メガネかけてパソコンに向かってるとかっこいい!」
「媚を売っても絞め殺すのを止めたりしませんよ」
「くそうっ!今の間に出来る命乞いってなに!?教えて!」
「ああ、何とか起動しました。取り敢えず…自動修復」
「絞め殺されない?」
「どうですかねえ、起動できてもデータが消えていたら絞め殺しますからねえ」
「もうわかったよ、じゃあせめて絞めるのは革紐にして。真綿は嫌だからね?」
「諦めが良いことで。…と、起動は何とかなったようですよ」
「データは!?僕の命と共にあるデータは?!」
「んー……ちょ、っと…待って下さい………四年生の卒論関連データも入っていますから、割と君の命だけじゃ済まないんですけれど…」
「そういうのはちゃんとバックアップ取ってよ!先生に絞殺されなくても四年生の人から八つ裂きにされるじゃんか」
「取る前にぶっ壊されたらどうしようもないじゃないですか…あ、大丈夫ですね。こっちも…大丈夫です。文字化けくらいは起きてそうですが」
「本当?本当?絞め殺されない?豚の腸で絞め殺されない?」
「残念ながら、絞め殺せませんでした。まあ逃げようとしたお仕置きだけにしてあげますよ」
「不問にしてよそれもー!!」
「駄目です。だって仕事のデータは壊れませんでしたが、趣味のデータが壊れましたもの。大目に見てやるのも限度があります」
「あ、ごめ、ごめんなさい…あの、なんてデータ…?」
「【高屋敷 智裕.exe】」
「え?」
「一度電源を落としたら、もう起動しなくなるでしょうねえ…」
「ちょ、え?な…!?」
「言いつけは無効にしてあげますから、まあ精々寝ないように頑張って下さいな。…さーて会議の時間ですから、元気に仕事してきますかねえ!」
「待って安西先生なにがどうなってるかとどうしたらいいのか教えてー!!1と0の世界の藻屑はいやあああーーーー!!」
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