「やあ、来ましたよ高屋敷君。今夜は赤いおべべですか、実に鮮やかでよく似合う

「いや…そりゃ今のところお客を取らされるとかそういうのはないけど、あんまりこういうお店に長いこと置かれるのは情操教育的観点からみて僕問題だと思うよ?昼間は綺麗で優しくしてくれるお姉さんの夜に立てる声とか凄く教育に悪いよ?」
「君はもう二十歳だったと思いましたがね。しかしまあ…そうですね、それではそろそろ君を身請けしてあげます。もう金魚掬いの時期ですからねえ。…でもその前に、もうちょっと遊んでいきたいです」
「お酒?頼んでこようか?」
「それと花札、君の歌。三味線は上手くなりました?」
「ぜーんぜん。お冷?熱燗?お冷ならそこの水鉢の中で冷えてるみたいだよ」
「それで良いです。よっこい…っと」
「耳掃除する?」
「いえ、昨日もして貰いましたし。しかし君は随分あしらいが上手くなりましたねえ。このままここで置いて貰いましょうか」
「暇なだけだよ。もう死ぬくらい暇。五回くらい死んだような気がするよう」
「三味線の練習をすれば良いじゃありませんか」
「やだ。あれ猫の革なんでしょ?可哀想だもん」
「動物愛護真に結構。おっと」
「うわ、零さないでよお酒臭いなー」
「ははは、ワカメ酒よりは良いじゃありませんか。まあ君は生えてなさそうですけど」
「なんの話?ワカメ酒なら昨日飲んでる人いたけど、センセも飲みたいの?言ってこようか」
「な…?!」
「でもあんまり高い奴じゃないみたいだよ。香料とか入ってるって言ってたし」
「あ、ああ…日新酒類株式会社の…ああ驚いた、君がそんな現場を目撃したかと思わず起き上がってしまいました。やれやれ」
「飲まないの?」
「ええ、止めておきます。全く無駄に酒の品揃えが良いようで…酔いも覚めて起きたついでに、さて、夜も更けましたね。そろそろ逃げ出すとしましょうか」
「へ?逃げる?」
「おや?ここから出たいのではありませんでしたか?」
「え、だって、身請けするって…お金出してくれるんでしょ?逃げる必要ないじゃない」
「ああそうでした。でも、それでは金魚掬いじゃありませんしねえ。さてタモの和紙は破けず金魚を救えるかどうか」






赤い着物が目立ち過ぎたのかもしれない

高い高い塀を先生に腕取られ

もうもう登り切ろうとした時

ひらつく帯を捕まえられて

僕はするりと落ちてしまった


先生は少しだけ惜しそうな顔をしたけれど

直ぐに別の方を向いて

さっさと僕の元から離れていった


着物を泥で汚した僕は

鱗の剥がれた金魚みたいに

金魚屋さんのおじさんが

ひょいと摘まんで放り捨てた
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