「高屋敷君があんまり構ってくれないものだから、先生マネキンに恋をしてしまいました」
「あっそ、ますます構わなくなってよくなったんだね」
「良いのですか?君に変質的な庇護欲を持つ私よりも余程イカレた外聞になりますよ?同じ型のマネキンが数百体詰め込まれた倉庫からも恋人を見つけ出せるくらいに」
「僕はその状況を視界に入れないから全然平気ー。っていうかわかってんなら生徒離れしたら…」
「ああ、いつからそんなに冷たい子になったのでしょう。陶器のマネキンよりも冷たい子です」
「だって夏だしセンセと遊ぶの暑いんだもん。この前もウサギとプレーリードック抱っこし過ぎて熱中症にさせてたでしょ。僕まで目ー回すのやだよ」
「…そうですか、そんなに言うなら、冷たい所に入れてあげますよ」
「へ?あげぼっ!?!」


ひんやり冷たく狭くて暗く

最初は倉庫に入れられたかと思った

だけど身動きが取れなくて

僕の肌より一回り

空間を開けて壁がある

暫く暴れて気が付いた

マネキンの中に閉じ込められたと


「こんばんは、今日も会いに来ましたよ。可愛い生徒を孕んだ愛しい私の恋人よ、今夜も月より美しい。透き通る磁器の肌からうっすら高屋敷君の輪郭が見える」
(「おまっ!出せー!!」)
「ははは、まだ生まれるには月が早過ぎます。あと十月九日そこに居て貰いませんとねえ」
(「死ぬわー!!」)

―――――――――――――――

「こんばんは、今日も会いに来ましたよ。月が満ちましたので、今晩は分娩のお手伝いをしにねえ」
(「僕の生理現象はこの十月十日間どうなってたんだろう」)
「勿論臍の尾を通して賄っていましたとも」
(「ウソを吐くなよ!っていうかこの十か月で発狂しなかっただけマシだと思えよ!」)
「私が胎教に読み聞かせをしてあげたから正気を保てていたのでしょうに、お腹にいる時から反抗期ですか。これは生まれてからも苦労しそうです」
(「死んでも親だと思わないけどね」)
「さ、そろそろ生まれてきて貰いましょうか。ええと、工具箱は確かこの辺りで…」
(「工具?」)
「ありましたありました。じゃあ、割りますね」
(「ホントにこのマネキン恋人だと思ってたの?!」)
「母子共に健康というものが当たり前になったのは近代からです。さようなら、愛しい恋人。こんにちは、高屋敷君」








(ゴキッ!バキングシャッッ!!)










「…死産でした」
 BACK