「高屋敷君、こんな怖い話を知っていますか?」
「いやー聞かないー!!」
「大丈夫、そのものを話す訳じゃありませんよ。ただ、よくある怪談のモチーフということです」
「う…?…じゃあ、聞く」
「それは良かった。で、つまりこんなものです…大人になった時にふと思い出す、友人と遊んだ記憶。しかしその記憶には些か奇妙な点がある。記憶違いかと思って当時の他の友人や、もしくは親に話を聞く。すると、誰もそんな友人は知らないと言う…」
「あ、よくあるかも。怖い話と言うよりはオカルト話って感じだけど。結構バリエーションあるよね?自分も忘れてて、人に言われて気付くとか」
「さて、では君は誰かを忘れてやいませんか?」
「…なんでそういうコト言うの」
「はい?」
「どーして怖いこと言うですかー!!ばかー!!」
「へえ、いるんですか?忘れている人が」
「いないよ!って言うか忘れてたらそもそもいるなんて認識しないでしょ?」
「じゃあ、いるかもしれませんね。君、確か去年の夏は友人とキャンプに行っていましたっけ。さて、行きは何人で帰りは何人でした?」
「それは…!」
「ん?」
「…佐々木と、水口と…高山、大野先輩、山宮先輩…合ってる、帰りもみんな、ちゃんと…」
「君も入れて、六人ですね」
「不安になるようなこと言わないでよね、もう…」
「だって夏ですから、涼しくなりたかったのですよ」
「あーあ、涼しくどころかやな汗かいちゃったよ。タオル借りるね、濡らして首冷やすのに使うから」
「どうぞ」
「夏は水道水も冷えてないからやだなー…」
「…ねえ高屋敷君、さっきの話ですけれど…」
「もーいいかげんにしてよう、これ以上不快指数上げたくないよ」
「実はね、私、去年のキャンプにこっそりついて行ったんですよ」
「え。なんで?」
「君の貞操が心配で」
「バカじゃないの?」
「いえいえこれが本当に。夜中に君がトイレに起きた時、そのすぐ後にテントを抜け出て追ってくる人影に気付いていませんでしたよねえ」
「?!」
「君は可愛いですから、友人であっても気を許すのは危険ですよ。でも安心なさい、当然私が殺しました」
「あ、ああ…そう…ありがと」
「どういたしまして」
「あの…一応聞いておきたいんだけど、誰だった…?」
「それが暗くて、誰かまでは分かりませんでした」
「そう………はぁー…なーんか人間不信」
「可愛い税ですよ、諦めなさい」
「んー」
「…さて、この論文を送りませんとね」
「がんばれー」
「頑張ります」
「……」
「………」
「……あれ?」
「うん?」
「あれ?ねえ、さっき…センセどうしたって言った?」
「何がですか」
「だから、僕を追いかけてきた人を」
「殺しましたよ」
「でも、じゃあだって、どうして」
「…」
「どうして、全員帰ってきてるの?」
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