「やあ高屋敷君、急に暑くなりましたねえ。そこでどうです?プールなんてのは」 「あ、安西先生。いつも通りのいきなりだね。でもプールは悪くないかも」 「そうでしょうそうでしょう。先生暑さに弱いですからね、少しでも涼しいところに居ないと溶けてしまいそうですもの。ああちなみに 「水着の用意はあるって言うんでしょ」 「…先読みは好みませんよ」 「だっていつものことじゃない。先生はいつもワンパターンだもん。そんでいつものように女物の水着でしょ?」 「ふふん、まだまだ甘ちゃんですねえ高屋敷君?今回は男物ですよ、先生はいつだって何者をも振り切る存在ですからね」 「うそマジで珍しいね?ちょっとびっくりですー」 「特注品でしてね、空中ではどんなにしても破れたりしないのですが、水に浸かると角砂糖の様に溶けるんです」 「いつもどおりじゃねえか。売店で買うからもう行こうよ」 「はい、では乗って下さいな。シートベルトも忘れずにねえ」 ――――――――――――――― 「あれー誰もいない。ちょっと時期的には早いけど、こんな暑いんだから結構人いると思ったのになー」 「私の存在をお忘れで?」 「また貸切にしたの…無駄なお金ばっかり使うよね本当に」 「芋を洗うようなプールは嫌いですよ。競泳選手気取りの暑苦しい輩はいるし、三時間シャワーを浴びてから入水して貰いたいふくよかな方もいるし、極めつけは幼児の」 「わかったよもう、嫌なら来なきゃいいじゃん」 「来なかったら暑いです」 「なんでもいいけど。ねえ浮き輪膨らませて!あとビーチボールもね!そんでウォータースライダー用のボートも借りてね?そんでね、さっき売店にイルカとシャチの浮き輪も売ってたから買ってきて!」 「君、人を何だと…?いえ、私を誰だと…?」 「財布でしょ?僕の。あとジュース!ジュースも買ってね、僕先に遊んでるから。あ、膨らませる用のポンプは休憩室で無料貸し出ししてたよ」 「覚えてなさいね」 「…全く、こんな馬鹿でかい浮き輪やら何やら、幾つ持っていたら気が済むんですかねえ?身体は一つの癖に、それとも浮き輪の数分だけ分割されたいんですかねぇ… やれやれ…一時間近く経ってしまったじゃありませんか そら高屋敷君、我侭通りのご注文の品ですよ ……高屋敷君? …! 馬鹿な子ですよ本当に…! 高屋敷君。高屋敷君? 意識がありませんか ああ、こんなに冷えて。だから脚が攣ったのですね… 水を飲んでいますか。大丈夫ですよ、すぐに呼吸出来るようにしましょう」 僕はそれを上から見てた 不思議に客観的な視点から 安西先生がナイフを取り出したのを 「口から息が出来ない時は、別のところに穴を開けてやると良い。冷たいバターを切る時は、ナイフをよく温めてから…」 先生はナイフを一舐めして 慎重に位置を定めて 滑らかに僕の喉を切り裂いた 当然僕はその切れた首から血を迸らせて どんどん溢れる僕の血は プールサイドのタイルの目地を スルスルトクトク流れていって 塩素の強い水に混じり しばらくほの赤く染めたけど すぐに沢山の水で誤魔化された 「ねえ高屋敷君、知っていますか?プールの水は、その量ゆえに取り替えられるのは年に一度あれば良い方なんですよ」 |