「ねえ、安西先生、僕ね、結婚することにしたんだ」 「ほほう、ついに私と家庭を持つ気になりましたか」 「バカじゃないの。…喜んでくれないの?」 「さてねえ、学生結婚は前途が多難ではないかと案じまして」 「生活の方は大丈夫だよ、相手の実家がおっきなお屋敷でね、僕が働けるまでは支援してくれるって。もちろん、稼げるようになったら返すけど。だから大学も続けられるんだよ。そうだ写真見る!?美人なんだよー優しいしね、趣味もすごく合ったんだ。あ、名前は○○○○って言うんだ、それで」 「ふうん?金持ちとは価値観が違うから結婚したくない何て言っていたのに、やはり目が眩みましたか」 「違うよ!好きだから結婚するの!どうしてそういう…」 「冗談です。…大丈夫、そういうことならお祝いしますよ。しっかり人生設計が出来ているなら、当然応援しますとも。結婚おめでとう御座います、高屋敷君」 「…うん。…よかった。僕ね、先生には絶対喜んで欲しかったんだよ」 「それは光栄」 「結婚式も来てくれるよね?」 「ええ、行かせて貰いますよ。君の新しい門出を贈り物持って祝いましょう。楽しみにしていますよ、高屋敷君」 ――――――――――――――― 僕は彼女の腕を取り 愛を誓おうとしたんだけれど 式場のざわめきがそれを邪魔した 振り返れば安西先生が立ち上がっていて 僕に一度笑いかけてから 隣にいた女の人の胸を刺した それからは阿鼻叫喚でよく覚えていない ただ扉が開かなかったことと 彼女が縊り殺されたことは覚えてる そうして僕は安西先生と二人きり 血まみれの教会で立ち尽くす 「…安西先生…?」 「うん?」 「なんで、こんな…どうして?先生だってお祝いしてくれたじゃ…」 「んー…まあとにかく、話は外にしましょう。もうじきここは火の海です」 「火の海?なんで?嫌だ放してよ!!」 「そうもいきません。はは、まさか攫うのが花嫁ではなく花婿とは、様式美も何もあったものじゃありませんねえ〜」 ――――――――――――――― 「…ホントに燃やしたの…」 「ええ、万が一にも生き残りを出す訳にはいきませんから。おっと気を付けて下さいね、最近は壁紙の有毒ガスなんかが心配です」 「……僕には理由を聞く権利があるよ」 「言いましょう。君は知らなかったでしょうが、あの一族は、現代のボルジア家。毒と暗殺であの地位を築いた下品な一族。界隈の鼻摘み者共だったのですよ。君に近付いたのも、恐らく君が私のお気に入りだからです。私の一族は毒なんて効きませんけど、用済みになった君ならば、どうだったでしょうねえ?」 「…うそ」 「嘘ならどれだけ良かったでしょうね?しかしこれにて悪は滅びました。一族の血を絶やさぬ筈の結婚が、まさか一族の滅亡になるなんて皮肉ですこと」 「でも、でも、僕は」 「彼女を愛していたとでも?馬鹿を仰い、君に似つかわしい女性は、あんな阿婆擦れじゃありませんよ。もう五回は結婚している、そしてそのうち五回とも、夫が病死している雌狐なんかとはね」 「…じゃあ…認めるよ、この結婚は間違いだったよ。でも、ねえ、じゃあどうして初めに止めてくれなかったの?なんでこんな、ひどいやり方したの!?」 「表向きの理由は、一族が全員集まるので手っ取り早く片付けられるからです。君には撒き餌になって貰ったと」 「それでも随分酷いけど…本当の理由は?」 「君が幸福の絶頂から、一転してどん底に落ちる姿が見たかったからですよ」 |