「高屋敷君、遺伝子とかDNAって知ってます?」
「バカにしてんの?これでもちゃんと大学生だよ」
「まあそう怒らずに。どんなものだかは知っていますか?」
「どんなって、設計図でしょ?生き物の」
「ええ、そんなところです。こんな実験は知っていますかね、ブロッコリーなんかからDNAをを取り出して視認出来る様にするのです。意外と面白いですよ、白い糸に似た沈殿を形作ります」
「高校の生物で資料集に乗ってた気がするけど、結局安西先生がなにを言いたいのかはさっきから全然掴めないですー」
「ん、だからですね、君にも見せてあげたいと思ったのですよ。人の素を」
「はあ、でもブロッコリーの素なんでしょ…って、なに?人差し指がどうかした?放してー」
「ふふふ、いえいえ、人の素ですよ。こんな具合に、ね」



僕の指先が安西先生の指先に

ついっと引っ張られて

ぴるぴるぴるぴる解けていく

僕はセーターみたいに解けて

一本の少し縮れた糸になった


そして鉤針編みで編み直されて

僕はもう一度僕になった



「…と思ったらなんか微妙に違うんだけど、なんで?」
「そりゃそうですとも、DNAはただの情報ですからね。編む過程で…つまり成長の過程で、個体差は出てくるものなんですよ」
「戻して」
「無理です」
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