「高屋敷君、危ないですよ」
「あっぶな!!ばっ、もっと緊急性をもって警告してよ!なんだその鏡はー!でっかいな!」
「よっ…と。やれやれ、何とか持ってこられましたねえ。ちょっとかすっちゃいましたが」
「…人体に?」
「あれ?よく分かりましたね」
「縁に血が付いてるもん」
「はははは、あー可笑しい。じゃあこれを着て下さい」
「相変わらずじゃあになんの意味も持たせないよね。ってまた女装かよ飽きたよ!」
「飽きる程…?」
「アンタがやらせてんだろ。エプロンドレス?これまたクラシック趣味だなあ、ロリータ趣味の方があってそうだけど」
「まあまあとにかく着て下さいな、話が進まないじゃありませんか」
「仕方ないなー」
「ご協力に感謝です」
「そんで、なに?女装と床に置いた鏡になんら関係性が見いだせないです」
「私は思うのです、水面と鏡面は相似であると。水鏡を知っていますか?太古の、最古の、鏡です」
「はー…ギリシャ神話のナルキッソスとかの?」
「はい、古今東西共通の概念です。今ある鏡はね、高屋敷君、元は水であるのですよ。つまり、鏡とは、作り物の水面です。あたかも自分と、鏡に映った自分のように。作り物の水を潜ったその先は、どんな作り物の世界でしょうね?高屋敷君、確かめてきて下さいな」
「イヤだよ!いきなりなに!?自分でいきなよなんで僕が?!」
「君の方が向いているからですよ、可愛い子。行ってらっしゃい、鏡の国のアリスみたいに」


安西先生に背中を押され

僕は前につんのめり

ボチャンと音立てて鏡に落ちた











「…という夢を見ているでしょうね、鏡の催眠術は強いですから。
 それにしても、やあ高屋敷君、鏡の上に立つものだからスカートの中身が丸見えです。
 夢から覚めたら良いからかい種にしてあげましょう」
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