お散歩していたら 目の前を走って横切った人がいました 花婿衣装の安西先生でした 「ん?…高屋敷君!丁度良かった助けて下さい」 「やだよ、その格好明らかに厄介事じゃない。誰との結婚式逃げ出してきたのさ」 「割とやんごとない感じの財閥の一人息子が可愛かったので誑かして遊んでいたのですけれども、一族郎党本気になってしまったらしくてですね。先程まで軟禁状態で大変だったのですよ?隙を突いて逃げてきたのですがこのままではまた捕まりそうです。何せ私の実家までそろそろ身を固めろとか言い出してきたものですから」 「ご愁傷様です。じゃあ僕もう行くね」 「高屋敷君…今まで面倒を見てあげた恩を忘れたのですか?」 「忘れたね。そもそも面倒見られた覚えもないし。自業自得でしょ」 「そう言わずに助けて下さいな。あんなヤンデレ紛いと結婚させられたら、もう君とも遊んであげられなくなるのですよ?」 「それはひどく望むところなんだけど」 「ふむ、では言い換えましょう。もし私は捕まって結婚する羽目になったところでアメリカ兵の引くトリガーより軽い尻軽男の浮気性ドンファンを止める気はありません。そんな結婚相手が確実に不幸になると解っていても君は私の結婚を阻止しようとは思わないのですか?」 「別にいいかな…相手もどうせ頭のトチれたショタなんでしょ?って言うかどうなの野郎同士で結婚とか。キモ」 「くっ…ここまで言っても協力しないと言うのですか」 「大体僕にできることなんてなんにもなしですよう。地位も権力もお金もないんだから」 「いえ、一つだけありますとも。日本では重婚が禁止されていますから、先に君と結婚してしまいましょう」 「バッカじゃねーのバーカバーカ!誰がするか!不幸になるのが解っていて誰がするか!人格破綻者!!」 「大丈夫ですよ。だって君、私に浮気されて心が痛むんですか?」 「え、痛まないよ。まず僕と安西先生の間に愛はないから、浮気ってのが成り立たないよ」 「じゃあ良いじゃありませんか」 「やだよ!愛がない結婚なんて」 「高屋敷君…私と偽装結婚して下さい」 「花束差し出されながら言われても嫌なものは嫌だよ。どこから出したのそれ」 「偽装結婚のプロポーズらしく造花を用意してみました」 「なんにも上手くないね。で、僕もう行っていい?」 「ふむ…そこまで抵抗するなら仕方がありません。まずは既成事実からですね」 「は?…ちょっと、離し…なんでけばけばしくライトアップされた建物に連れ込むの?!ご休憩とか書いてある建物に引きずり込むの!?た、助けて誰かぁー!!」 ――――――――――――――― 「…んー…ホテル代を払ったら持ち合わせがほぼゼロになっちゃいましたねえ…これはうまく逃げないと拙そうです」 「こんなとこ安西先生と入ったなんて知られたら僕結婚出来ないですー!!」 「ちょっと静かにして下さい、忙しいのですから」 「なに!?そんな念入りな準備をするほどのプレイをする気なの!?」 「何で君みたいなガキと寝なきゃならないんです」 「…なにしてるの?一面張り巡らされた鏡を一枚一枚叩いていいこととかあるの?」 「静かになさいったら。聞こえないでしょう…あった、ここですね。高屋敷君ドライバー」 「え?」 「プラスでもマイナスでも良いですから」 「ど、どっちも持ってないよ!」 「どうして持ってないのです」 「一般人が持ち歩いてるほうが変だよ…」 「役に立たない子ですねえ」 「って言うか、そんなのなにに使うの?」 「それよりベッドマットの下を探って下さい」 「え…えっと、んと………う?なんかある…ドライバー!?」 「寄越しなさい、鏡外しますから」 「なんで?」 「うるさいですね、抜け道に繋がってるんですよ。早く持ってらっしゃいったら」 「こんなところにドライバー仕込んで抜け道作って…先生って一体何者なの?」 「知ったことじゃないですね。…ん…っと、よし、これで良いでしょう」 「どこ行くの?」 「さあ何処でしょうね。じゃ、君は普通に帰ってくれて構いませんよ」 「えええ?!僕も一緒に入った意味無くない?」 「だって一人で入ったら目立つでしょう?とにかくもう帰りなさい、盛り場なんですから寄り道せず急ぎ足で帰るんですよ。…あ、鏡を嵌め込んでから帰って下さいね」 それから三日安西先生を見掛けなかったけど 四日目には普通に講義してた 五日目に見た新聞には どっかの財閥が破産した記事が載ってた 自分の為になら何でもやる人だなあ |