「あれ?安西先生なに食べてるの?」
「猫の尻尾です。猫の尻尾を湯掻いてめんつゆに浸した尻尾蕎麦です」
「……今更言うのもなんだけど、狂ってるよね」
「本当に今更ですね」
「ちょ、血の混じった汁飛んでる!向こう行けっ」
「もう食べ終わるから良いじゃありませんか」
「あのさあ、安西先生はそういう闇のレシピを幾つ持ってるの?」
「分かりません、いつも思い付いたがままに作っているので。ところで一週間前に犬の鼻をもぎ取って糠味噌に漬けたんですけれど、そろそろ食べても大丈夫だと思います?」
「生涯食べないほうがいいと思う」
「おや高屋敷君は糠漬けが嫌いでしたか。最近の子はファーストフードばかりで先生心配です」
「僕は安西先生の頭が心配なんだけど。付いてってあげるから病院行こうよ」
「嫌ですねえ高屋敷君、狂っているのは自覚していますよ」
「なおさら行こうよ!」
「行っても完璧な健常人の振りをするから無駄です」
「タチ悪いなー」
「大体病院食って不味いんですもの。ご飯とかおかゆに近い状態で出てきますし、全体的に淡白だし、牛の目玉も出ないし」
「最後以外は同意だけどさ、安西先生は相変わらず病院嫌いだねえ。頭もそうだけど、体も具合悪くなったらちゃんと行かないとだめなんですよー」
「嫌です。病院に行くくらいならぶっ壊れるまで無理をしていよいよになったらクローンに脳移植をした方が良いです」
「どうしてマッドサイエンスを駆使してまで行きたがらないんだろう…」
「だって入院にでもなったら暇で仕方がないじゃありませんか。鮫が泳ぎを止めたら死ぬように、私も退屈潰しが出来なくなったら死ぬのです」
「退屈潰しって、例えば午前中に見掛けたあの人体がまるで壁に飲み込まれたかのように見える死体ディスプレイのこと?上半身を切り落として切断面を壁にぴったり貼り付けてるやつ」
「違いますよ、まるで人体が壁を通り抜けたかのように見えるディスプレイですよ。外に出たら解かると思います。上半身が外壁にぴったりと貼り付けてありますからねえ」
「今気付いたこの、床でのたうっている「人間の右腕のみ」みたいな謎の生物も退屈潰し?」
「はい。でも失敗作なんです、口がないから餌をやれなくて。たぶんのたうっているのは餓死しそうだからだと思います」
「食べ終わったどんぶりで僕の頭を思いっきり殴ったのも?」
「頭蓋骨が割れましたね。代わりにこのどんぶりを被せておきましょう。可愛いですよ鉢担ぎ姫みたいで」
「…僕、今からでも進路変えようかな」
「うん?思い切りますねえ、それはまたどうして?」
「精神科のお医者さんになって、安西先生の頭を治したいから」
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