「やあ会長君、急に呼びつけてすみませんでしたねえ」
『いえ、仕事は他に任せてきましたので。お気遣いありがとうございます、安西先生』
「ん。…君は蓄音機の使い方を知っていますか?」
『知識としては』
「そうですか、ではそこにあるのをお願いしますよ」
『はい、安西先生。…随分古いものですね』
「ええ…でも手回しではありませんから、用意が済んだら君もここに掛けなさいな。コーヒーを淹れましたし、鑑賞会と洒落込みましょう」
『はい、安西先生』
「いやあそれにしても、最近はダイヤモンド針が入手し辛くなりましてねぇ〜」
『言って下されば、直ぐにご用意しましたが』
「ん?うん、まあ、し辛いだけですしね。ある所にはありますし、生産もまた始まっているらしいです」
『成る程』
「機材の用意は?」
『済みました。レコードはどちらに…』
「ああ、これです。レコードと言うよりソノシートですから、優しく頼みますよ」
『…これは…随分変わっていますね』
「私のお手製なんです」
『胸部のレントゲン写真で、ですか』
「ええ、肋骨レコードというのです。第二次世界大戦後のソビエト連邦で出回りました。綺麗でしょう?」
『華奢な骨格で、大変美しいかと』
「かけて下さいな。そっと」
『はい、安西先生』
「……ああ、よく聞こえますねえ。良かった良かった」
『Puff the Magic Dragon、ですか。お好きだったとは知りませんでした』
「素敵な歌だとは思いませんか?実に切なく、儚い歌です」
『木琴ではありませんね。何の楽器で演奏なさったのですか』
「んー…そうですねぇ、始めから話しましょうか。どうぞ掛けなさい?会長君」


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「はい、大きく息を吸ってー…はい止めて。…(ピー)…はい、お終い。お疲れ様でした高屋敷君」
「あー寒。何で急にレントゲンなの?メガネ白衣とカルテから見て、安西先生ってばコスプレ遊びしたかったの?理科教師なんだから似たようなもんじゃないですかあ」
「違いますよ。君が不治の結核だからです」
「なああ!!?」
「冗談です」
「あほー!!寿命縮んだよ!」
「失礼」
「あいたたあひゃははは!?!」
「ふむ、君は骨が細いですねえ」
「触んなっ!僕はくすぐりに弱いんですー!」
「もうちょっとですよ。打診で骨の音を聞きますから静かになさい」
「うー」
「……ふうん、こんなもんですかねえ」
「お終い?」
「ええ」
「じゃあ服返してよ。…って言うかさあ、え?僕ホントに病気じゃないよね?なんか怖いんだけど」
「大丈夫、本当に病気じゃありません。しかし服は返しません。寧ろ更に剥ぎ取ります」
「なっ…き、貴様ー!!さてはショタを汚す僕の保健室へようこそ的な狙いだったんだなー?!PTSDで慰謝料ふんだくられたくなかったら指一本触れるなー!!」
「何を勘違いしているか知りませんが、あまり動かないで下さい。なるべく骨に傷を付けたくないんですよ…」
「え、あ、へ、なにそのメスなんで心臓に狙いをつけてるのふうぐっ!?!」


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『…成る程、高屋敷君でしたか』
「レントゲンも、楽器もねえ」
『そう知って聴くと、また違った風合いがあります』
「そうでしょうそうでしょう。ふふふ、面白いものが出来ました。これは宝物にします」
『お望みの通りになりますように』
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