「ぴー」
「ああ高屋敷君、今日も今日とて可愛らしい小動物の泣き声です。とても大学二年男子とは思えません。何があったのですか?先生、可愛い君を泣かせる者は一族朗党コンプレッサで砕いて海洋投棄する構えですよ」
「僕モテたいの!もう安西先生の寵愛の下永遠に幼児でいさせられるのはいや!具体的には今の歴史ブームに乗っかって歴女の皆さんに大人の男にしてもらいたいですー!」
「じゃあ死んだらどうですか。生きてるうちは歴史になんてなれませんよ」
「手、手のひら返すね…」
「当たり前です。忘れてもらっては困りますがねえ高屋敷君?君がこの狂的な大学で生きていられるのも、この私の気に入りだからなんですよ。もしハムスター役を辞めると言うなら、辞めるのなら…辞めるなら…ふふ…」
「怖いよ!」
「だから諦めて可愛く私を和ませていれば良いのです。ほらヒマワリの種をあげますから」
「いらないよう、公太郎じゃあるまいし。もーやだー!僕は大人になりたいのー!!」
「ああ煩いですね、一体何が不満なのです?そこで寝ているだけで一生養ってやると言われるのがどうして気に食わないのですか。君は子供だから大人になってからの苦労を知らないのです。良い子だから先生の言うことを聞きなさい、悪いようにはなりません」
「うわーん!僕はラプンツェルの気分ですうー!!あーん!うえーん!!うあー!!」
「汚いから床に倒れ付して泣くのを止めなさいな…困りましたね、ほら立って」
「ひっく、ひっく、昔の人は十五歳で大人になったのに。僕は今年で二十になるのにまだ大人になれないぃー!!びえー!!」
「そんな泣き方の内は無理だと思いますがねぇ」
「ムリじゃないもん!今が悪い!現代が悪い!戦乱の世なら僕だってカッコよく戦って男らしかったはずなのー!世が世ならばー!!」
「ああ、だから歴女とか言っていたのですか。…ねえ高屋敷君、解りましたからそろそろ床を転げ回るのを止めて下さいな。埃が…」
「やめて欲しければ僕をカッコいい武将にしろ!強くて男らしい戦国武将にしろー!!」
「甘やかし過ぎましたかねぇ…やれやれ、良いですよ。その我儘を叶えましょうとも」
「ホント!?」
「仕方なしにですけれど。タイムワープさせてあげます」
「言っとくけど、武田信玄のところに送られるのは嫌だよ?」
「解ってますよ。嫌な知識を持っていますね、君の言う歴女とは冠詞に腐が付くのではないでしょうねえ?」
「よーし戦国時代で立身出世してみせるですよ!一回りも二回りもでっかくなって帰ってくるんだから!もう安西先生に小動物扱いされないくらいのカッコいい男になって目にもの見せてやるですー!!」
「はいはい乞うご期待。じゃあこれ、タイムワープ装置です。真ん中のボタンを押せば戦国時代に行けますし、帰ってくるのも同じですから、まあ精々死なないようにね」
「ありがとー!じゃあ行ってくるです。お国の為に行って参ります!!」
「間違ってますよ。…と言っても、もういませんが………さてさて、あの甘ったれがどれだけ持つやら。見物ですねえ…」




―――――――――――――――




「恥ずかしながら戻って参りましたー!!?」
「だから間違ってますったら。…お帰りなさい、高屋敷君。まさかコーヒーを一杯飲み終える前に戻ってくるとは思いませんでしたが、この短時間でカッコいい大人の男になれたのですか?どう見てもハムスターのままですけど?」
「ち、違うんだって!ちょっと予想外だったから!」
「何です、鎧が重くて立ち上がれなかったとか?」
「違うよ!あのね!確かに血で血を洗う恐ろしい戦国時代だったけど、でもでもそこは平気だったの!だってうちの大学と同じ状況だったから!」
「まあ、地獄絵図は我が大学の名物ですからねえ」
「だけど問題はそこじゃなかったんだよう!ねえ安西先生は織田信長知ってるよね」
「それは勿論、第六天魔王と呼ばれ争いを好み敵対する人々を片端から撫で斬りにし屍の山を幾つも築いた、最期は裏切りによって焔の中自刃したといわれている人物です」
「その虐殺好きの織田信長に偶然遭ったんだけどさ。信長、安西先生にそっくりだったんだよね!教科書に載ってた肖像画と違って安西先生にそっくりだったんだよね!」
「…」
「だから逃げ帰ってきたんだけどどういうこと!?ねえあれどういうこと!?答えてよ虐殺好きの安西先生?!」
「あー……いや…まあ、空似じゃないですか?他人の。そう他人の。そんなに気にすることじゃありませんよ蘭ま…いえ、高屋敷君」
「今蘭丸って言った!森蘭丸って言った!寵愛してたのか?!現代の僕のように寵愛してたのかー!?ちょっと…どこ行くのさこの不老不死ー!!」
 BACK