「高屋敷君、今から私と一緒に人形品評会にいらっしゃい。断ることは私の名において許しません」
「…相も変わらず物の頼み方ってのを知ってるね安西先生…そこまで傲然と命じれるのも気高い血の所以ですかぁ〜?」
「黙りなさい労働者階級。これ以上搾取されたいですか?」
「うー…でもさあ、何で僕まで見に行かなくちゃいけないのさ?一緒に行く人ならいっぱいいるでしょ?僕、お人形は嫌いじゃないけど、沢山あるお人形は好きじゃない…」
「違いますよ、私が出品するのです。ただ困ったことに、今回は自作の人形がありませんでしてね…毎年作っていましたけれど、今年はうっかり作りそびれましたから。だから君を連れて行くのです」
「へ?え、じゃあ僕を人形ってことにして出品するつもりな訳?…それはちょっと無理があるんじゃ…」
「ふむ、語弊があるようですね。人形と言っても例の陶器製のものではありません。人形に仕立てた人間の見せびらかし合いですよ。動かない、喋らない、美しい人形です」
「…金持ち趣味ここに極まれりって感じだなあ…えー!えー!でもー!そういうのってものすごい時間かけて作るんじゃないのー?今からおにんぎょさんの真似なんてできないよー!」
「大丈夫ですよ、君は素材としては申し分ないですし、何よりとっても良い子です。先生の言うことなら何だって聞いてくれるじゃありませんか?例えばそうですね、息をするな。…と言ってもね。だから安心してお人形になって下さいな?勿論、躾不足は否めませんから格好だけ付けてくれれば良いです。心までなれとは言いませんから、せめて見た目だけでも人形らしく…ん?何です引っ張らないで下さい…?」
「…!…!!」
「ああ。はいはい、もう息をしても良いですよ」
「ぷっはあ!!?ばばばばかじゃないのばかじゃないのいくら躾たって息しない人間なんか作れないでしょ?!」
「勿論、許されている事項はあります。例えば呼吸、例えば瞬き。その辺はギミックとして扱う決まりです。稀に歩き方や歌い方、ダンス等のカラクリ仕掛けを仕込む方もいますけれど、少々邪道じゃありませんかねえ」
「いや、まあその辺はお金持ちの判断に任せるけど…んっと、じゃあとりあえず動かないだけでいいの?」
「ええ、それで十分です。私が抱いて運びますから、君はただ何も動くな、何も語るな、何も聞くな…」
「とんでもない奴隷条項」
「…と、言いたいところですが。流石に何も仕込んでいない君にはこれも無理でしょう。語ることと聞くことを許してあげますよ。良いですか高屋敷君、これからは心の中だけでお喋りなさい?」
「?」
「それを私が読んであげます。そしてお返事をしてあげます」
「(なんで読めるの)」
「黙秘します、面倒なので。…さてこれで上辺の取り繕いは出来ました。服も適当に着せ替え…面倒ですね、着せなくて良いですかね」
「(着せてよ!服も重要でしょ!?)」
「もう時間がないのです。寒いかもしれませんが、お人形だから平気でしょう?」
「(だからそこまでちゃんとやらなくていいって言ったじゃない!だから協力してるのに…!)」
「さあ行きましょう高屋敷君。沢山沢山良く出来た人形があるでしょうが、きっと君が一番可愛いお人形ですからねえ〜…」
「(やっぱり言うこと聞くんじゃなかった!!)」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「(安西先生!安西先生ー!!)」
「何ですか高屋敷君、耳元で叫んだらうるさいです」
「(いや心でしか話してないんだけど?じゃなくて!怖いよここ!ホントに金持ちと人ならざる人しかいないよ!)」
「人形師とその人形と言いなさいな。皆さんのプライドを蔑ろにしてはいけませんよ?道楽にしたって、これ結構手間かかるんですから」
「(やらなきゃいいじゃん…)」
「やらなければつまりません」
「(ああそう…センセは去年どんなの出品したのさ?)」
「うん?…そうですねえ、女の子の人形です。目がぱっちりで、色白で…ってね」
「(捕まればいいのに。…ねえでもさ、僕もう退屈してきちゃった!ずうっと見て回るだけなの?)」
「いいえ、それはそろそろお終いです。次のプログラムが…そらきました、合図ですよ」
「(なに?なに?なにやるの?)」
「貸しっこです」
「(……なにを?)」
「人形以外に何があります」
「(人形…って、ば…ばばばばば!?!やだやだやだ僕やだよ!僕お人形のフリしてるだけだもん!!)」
「何、壊されやしませんよ。それはルール違反ですから。ただ人形は人形ですからね、玩ばれるのはその宿命です…さて、誰に貸しましょう?あの関節外しが大好きな残虐趣味の御婦人か、組み換え好きの御爺様か…いいえ、あの野犬の群れに投げ込んでやることにしましょう」

『おや安西君、今年の人形の出来はどうだい?』
『可愛いものだ、こんなに小さい』
『しかし丈夫そうだな、多少荒っぽくして構わないだろう?』
『勿論壊しやしない。が、これだけ人数がいるとどうもねえ』
『引っ張り合いで大変だ』
『本当に小さい、これで私達全員に回るかね?』
『期待するしかないだろうさ、安西君の腕にね』
『で、どうだい。貸してくれるのかい?』

「ええ、勿論どうぞ。先輩御仁方々に気に入って頂けて幸いです…私はこちらの人形をお借りしても?」

『ああ、好きに持って行き給え』

「これはどうも。では暫しの別れですよ高屋敷君、大丈夫、皆さんきっと優しく遊んでくれますからねえ…」
「…ひ…」
「おや?」
「い…いやあああ!?!いやだあああ!!人形じゃないの!僕は人形じゃないのおぉぉ!!!」
「…おやおやおや、やっぱり急場では出来そこないの人形でしたか…ならもういりません。返却不要。存分に壊して下さって構いませんよ!あっははは!!」
「ひいいいぃぃぃぃ!!いいいいい!!!いやあああああ行かないで行かないで安西先せいひいいいいいぃぃぃぃいいいいいぎゃああああああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!?!

 BACK