「安西センセー!」
「…ん、高屋敷君。早かったですね」
「もう、急にプールなんかに呼び出してなんなんですかあ?」
「ふふふ、そう膨れないで下さいな。良いものを見せてあげますから」
「いいもの?」
「高屋敷君は今時の若い子ですから、水中花なんて知りませんかねえ?」
「う?水中花?」
「昔は縁日でよく売られていたそうです。木の薄片に色を付けたものや花紙、布やビニールで出来た花でしてね。店に並ぶ姿はどれも萎れてみすぼらしく見えますが…一度水を満たしたコップに入れられると緩やかに花開いて、それは美しく可憐に揺らめくのですよ。酒の杯に入れて風流を楽しむ人もいたそうです」
「ふうん?じゃ、プールにそのお花いっぱい咲かせたわけ?」
「はい。普通のものとは一風変わった水中花です。君に見せてあげたくてねえ…いらっしゃい」
「金持ち趣味だね相変わらず…」
「金持ちが金を落とさなくてどうして経済が回りますか。精々ばら撒いた金を拾っていなさい労働者共」
「そのボンボン面ひっぱたいてやりたいよ」
「札束で引っ叩くのはよくやりますけど?良いからほら、この向こうですよ。折角見せてあげようと思ったのに、文句ばかり煩い子です。君も沈めてしまいましょうか」
「うわーすっごく楽しみ!綺麗なんだろうなっ♪」
「そうそう、貧乏人は可愛く媚びてりゃ良いのですよ。…ほらここです、綺麗でしょう?」
「あーホントだね赤とか黄色とか揺ら揺らなびいてとってもキレイ…っておわあああ!!?人だこれ!?!」
「そうですよ、髪の長い女性ばかりを五百人程。足に重りをつけて沈めてあります。最近は馬鹿みたいな髪の色をした女性が多くて助かりますよね」
「五百人の死体じゃねーか!!なにが水中花なのさ怖いよ!横溝正史の世界だよー!」
「百花繚乱風流雅。江戸の吉原でさえこうはいかなかったでしょう。さて、水漬いた花を肴に一つ酒盛りをしましょうか?」
「僕は帰る!さようなら!!」
「いつものことですけれども、扉が開くと思います?」
「うわーうわー開かない開かない!いやあああ!!」
「騒いでいないで、良い子だからこっちにいらっしゃい。それとも、死んででもここから出たいですか?」
「…行きます」
「そうですか、先生聞き分けの良い子は大好きですよ。ここに座ってお酌をしてくれればもっと好きです」
「あ…は、はい。どうぞ…」
「ふふふ。綺麗な花見て、可愛い子を侍らせて…正に望月の君の気分ですね」
「まったくそのとおりでございますです」
「おやおや、そう固くならなくても良いのですよ?大丈夫、君を沈める気なんてありませんから」
「ほ、ホントに?」
「ええ、髪が伸びるまではねえ」
いやあああーーーーーーーー!!!
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