「安西先生、本なんか読んでないで一緒に人生ゲームやろうよー」
「ん…と言うかさっきから言おうと思っていましたが、一人で人生ゲームはどうかと思いますよ高屋敷君」
「だから一緒にやろうって言ってるんでしょー!」
「いや、二人もどうかと…」
「なに読んでんの?」
「FBI犯罪心理学とか、そちら系ですね」
「ああ、人として不良品なのを集めた本だね」
「言いますねえ…評判を落としますよ?」
「だってぇ」
「良いのですよ、人間未満がもがいているのを高みの見物出来るって素敵なことじゃあありませんか。気違いというものは、その為だけに存在しているんです」
「ちょ…自分の方がやばくない?人権団体とかってすぐ怒る人達ばっかりで出来てるんだよ?」
「そんなことは知りません。それに私は褒めているのですもの。気違いの思想とか、人生観は面白いですよ?常人のそれより余程一本筋を通している…だから犯罪を起こすんですけれどね。窮屈だからと自分を削るのではなく、世界を削ろうとする馬鹿ばかり。さても彼らは何の為に生まれてきたのやら?」
「安西先生を面白がらせるためじゃないの」
「成る程、真理ですね」
「でもあったまおかしくなくても面白がらせられるよ。だから一緒に人生ゲームやろう」
「人生ゲーム気違いですか君は…釣りキチ三平みたいで格好良いですね」
「別に人生ゲームじゃなくてもいいけどさ。じゃあ先生なにしたい?」
「んー…精神病院を見学に行きたいです
「アンタ絶対刺されるよ…」
「何、心配は要りませんよ。精神病の患者なんて大人しい人達ばかりなんです。大人し過ぎたから理不尽な世間に傷付けられてしまったような、心優しい人達ばかりですよ」
「ホント?でも、それなら精神障害者の犯罪なんて起きないんじゃないの?」
「ふふ、高屋敷君はいつまでたっても愚かですね。精神病院に入っていないから犯罪を起こせるのではありませんか。勿論精神病院の入院患者にも殺人衝動のある方は沢山いますが、どうせみんな薬でぼんやりしているだけです。安心ですよ」
「ねえ安西先生、僕、これから暫く夜道が怖い」
「ん?変態性欲者に拉致られるとかですか?」
「いや、どこぞの団体に背後からぶっすりいかれるんじゃないかと」
「大丈夫大丈夫、フィクションですよ」
「ならいいけど…」
「で、どうします?見学に行きますか?」
「いいよ、別に。安西先生の言うとおりの所だったとしてももう聞いたからつまんないし、実際には人道的で素晴らしい所だったとしてもそれはそれで興味ないし」
「ドライですねえ、今時の子ってこんなものなのでしょうか」
「無気力は若者の代名詞ですー」
「全く嫌な世の中になったものです。死人は遺産相続争いを生み、老人は金を溜め込み、中年は性欲に塗れるかリストラ、若者は金が無く就職も出来ず二次元に走り、子供は性犯罪の餌食か将来を悲観し、赤ん坊は生まれてこない。心が病むのも当然ですね」
「僕はそれに不満も無いけどね。長い歴史上いつに生まれたって最悪だよ」
「今日の高屋敷君は微妙に可愛くないですねえ…その据わった目を止めてくれませんか」
「座った目なんて今時珍しいものでもないよ。輝く目なんてフィクションにしかないよ」
「よしよし、フィクションの塊が何言ってるんですかねこの子は」
「なんか白けた。人生ゲームもやる気しなくなっちゃった」
「私のお手製人生ゲームはどうですか?九割のマスが人生終了の超ハード人生ですけれど。勿論精神病院入院マスも無差別殺人で逮捕マスもありますよ」
「それはなに?普通の人生ゲームみたいに宝くじや馬券がバンバン当たって億万長者なんて有り得ないっていうアンチテーゼ?でもセンセお手製の生き地獄人生も有り得ないと思うけど。大体それゴール不可能だからゲームとして成り立たないし」
「ふーむ…これまでの会話のどの辺りが、高屋敷君を死んだ目にさせた分岐点だったのでしょうねえ」
「醒めた。飽きた。世の中バカばっかりで嫌になっちゃう」
「はい高屋敷君、クッキーですよ」
「わあいクッキーだ!」
「馬鹿はどっちなんです。今泣いたカラスがもう笑うんですからねえ」
「精神病なんてあれだよね、おいしいもの食べて寝れば治るよね」
「治るものですか。薬を飲ませて眠らせておくに限ります」
「またそういうこと言うの?怒られるよって言ってるじゃない」
「そして可愛い子も、薬を飲ませて眠らせておくに限ります」
「え…あ、う、ぁ?………ぁ」
「おっと危ない。…ふふ、大丈夫ですよ高屋敷君?これから君が過ごすことになる、真っ白なお部屋であげるお薬は、余計な心配をしなくなるお薬ですからねえ…君は何も不安にならずに、私に監禁されていれば良いのですよ。捕まるドジなど踏みません、君は一生私の玩具です」
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