明晰夢は昔から見る方だった

今夜の夢もそれだった

飛び切り悪夢のその夢は

視覚に聴覚嗅覚味覚最後に触覚

どれもが不快を感じ取り

夢であっても耐え難く

地獄の中で笑っているのは

安西先生ただ一人


「おはよう御座います、高屋敷君」
「おはようもなにも、安西先生、僕はまだ寝てるんだけど?」
「いいえ、君は確かに覚醒していますよ。だって君はそうして自由に行為を出来る身です。舞台がどこであろうと、君は君であるのだから」
「あーあーなんのことだか解んない。また安西先生がなにか余計なことをしてるのかな?それともこの夢は本当に僕の脳ミソだけが作ったもので、僕はおかしくなっちゃったのかな?こんな夢、気違いじゃなきゃみないよね」
「狂うことでしか成せない御業は、この世に確かにあるのですよ、高屋敷君」
「芝居がかった台詞はもうたくさん。早く起きなきゃ」
「だから、君はもう目覚めているのです。目覚めた以上、ここが君の現実です」
「…じゃあ、現実から覚める方法は?」
「君もよく知っている通り」
「わかんないよ。寝ろってこと?」
「いいえ、いいえ、眠るのはいけません。夢の中で眠ればそこはまた夢。覚めること等有り得ません」
「なにがなんだかわかんないや。流石夢って感じ」
「胎児よ胎児よ何故躍る、母親の心がわかって、恐ろしいのか」
「ドグラマグラなんか読んだ覚えは無いよ。つまんなそうなんだもん」
「そんなにここから覚めたいですか?」
「覚めたいね。だってあんまり酷い夢だよ。ねえここから出してよ?どうせ先生が閉じ込めてるんでしょ?」
「君の脳髄は君が生まれた時から君の頭蓋骨に閉じ込められていますよ」
「…夢かな、やっぱり。安西先生が見させてる夢にしては、安西先生が安西先生らしくないもんね。ただの僕の夢かな。安西先生なんかと付き合ってるからこんな夢を見るようになったのかな。それでも間接的には安西先生のせいだけど」
「私が外から来たのであろうと中から沸いたのであろうと、それは君の脳味噌の中の出来事です」
「はいはい、わかったです。それじゃあどっちにしろ安西先生は僕の脳味噌の中にしかいないんだね。ならどっちの安西先生も一緒だね?」
「君がそう思うならそうなるのです」
「じゃあこの夢を終わらせて。安西先生ならできるでしょう?」
「勿論、出来ます。しかし君の脳にいるとはいえ、私は私、君と同じ思考は有り得ない」
「だから支離滅裂はもうたくさん!早くして、もうこんな気持ちの悪い夢見てるには嫌なんだってば」
「分かりました、終わらせてあげましょう。それでは高屋敷君、さようなら」










(『死亡していた…は北海道……市在住の……高屋…智裕さんで…ること……確認されました………遺体は頭部が…破裂したよう………凄惨な状態で……警察は事件性を………』)

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