「高屋敷君、今日もすっかり春めいていて良い散歩日和ですねえ。一緒にどうです?」
「えーでももう桜も散ってるしー」
「良いじゃありませんか、年寄りの暇潰しに付き合うのは若者の義務ですよ」
「年寄りって、安西先生年取らないじゃん」
「君のその勘違いはいつから始まったのでしょうね」
「まーいいか、途中でコンビニ寄ってくれる?そんでおかし買って」
「勿論良いですとも、では行きましょうか。春は紫外線も強いですし、しっかり帽子を被ってねえ」


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「やっぱり桜は完璧散っちゃったねえ、すっかり葉桜さんですー」
「これはこれで風情がありますけれども…おや」
「う?」
「見て下さい高屋敷君、桜は散りましたが、タンポポは花盛りです」
「あホントだ。よく見ればそこら中咲いてるや」
「可愛いですねえ、先生タンポポって結構好きなんですよ。と言っても、好きになったのはここ数年ですけれど…」
「んー?なんかきっかけでもあったですか?」
「ええ、この小さくて明るい色をした花が、君似ていると気付いた時から」
「あのさー子供の頃タンポポの首飛ばして遊ばなかった?このガクのとこ親指で弾いてクビチョンパって言ってさー飛距離競うの」
「高屋敷君、ふてぶてしくなりましたね。昔は真っ赤になって変なことを言うなと怒ってきてくれたのに。私やっぱり君のこと大嫌いです」
「あっそですか」
「お返しに私も嫌な話してあげますよ」
「なにー?」
「例えばほら、あそこで咲いているタンポポ。背丈が異常に高くなっていますよねえ」
「そだね、でもあれって結構見かけるよ?」
「そして向こうに咲いているタンポポ、複数のタンポポが融合して異常に太く大きくなっています」
「ホントだね、でもあれも結構よくあるけどなあ」
「そうですよね、ある時期から全国で見かけられるようになった不思議なタンポポです。見つかり始めた頃はTV等で姦しく取り上げられていて、環境汚染による異常成長ではと取り沙汰されていたものです。でもですねえ高屋敷君、そんなタンポポが、何故かある時からぱったりと報道されなくなってしまったのです。相も変わらずこうして奇妙なタンポポは咲き続けているのに。さてどうして誰もがこのタンポポについて口を閉ざしてしまうようになったのでしょう?何か口にしてはいけない理由でもあるのでしょうか?どう思います高屋敷君?」
「うわー!!うわあああああーーーー!!!」
「おやおや…高屋敷くーん、砂利道で走ったら転びますよー」


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「異常気象環境汚染放射性廃棄物土中酸素含有濃度農薬塵芥排気…」
「そう落ち込まないで下さい高屋敷君、そんなに頭を掻き毟ってはハゲてしまいますよ?頭皮が」
「自然のメッセージが!!自然の警告が!!自然の人類淘汰が!!」
「いけませんったら高屋敷君…ほら犬がこっちを向いて吠えていますし、その飼い主さんが今にも手に持った携帯で警察に通報しそうです。…ああそうですこうしましょう、良いもの見せてあげますからその発狂を止めてください」
「いいもの?」
「おや現金」
「いいものってなにー?みたいみたい!」
「きっと君も気に入ると思いますよ。…えー…っと、ですね、ちょっと待って下さいな……よっと」
「なに後ろ手でごそごそしてんの?すごい怪しいんだけど」
「仕方ないじゃありませんか、本職の方のようにはいきませんよ…っと!…はいどうぞ、可愛いお嬢さん?」
「お嬢さんだぁ!?…って、え?なにこれ?」
「素人の手品ですみませんね。少し萎れてしまっていますし」
「わ…これ、タンポポ?なにこれ色も手品なの?!なんでピンクと白色してるの?可愛い!」
「いえ、これは元々こういう花があるのです。残念ながら、花の色を変えられる程奇術に長けてはいないのですよ。恥ずかしい限りですけれど」
「普通は手品が出来ないことを恥ずかしがったりしないと思うけど」
「いやいや、私のようなキャラは、総じてマジックが得意でなければならないのですよ」
「それ、なんの固定観念?」
「しかし可愛い恋人を喜ばせる術なら神も悪魔も蹴落とす孤高の手腕を誇ります。私には属性として美少年・美少女を魅了し虜とする能力がありますので、それはもう食い放題ですよ」
「嫌な技術だね」
「そう言っていられるのも今の内…さあ着きましたよ?これを見せれば可愛くない君でも、きっと極上の笑顔で私に微笑んでくれるでしょう」
「へ?…うわあ!!なにこれすごーいーー!!お花畑ぇーーー!!しかも黄色とピンクと白のターンーポーポーだーけーぇーーーー!!!」
「ちょ、転びますよ高屋敷君、そんなに猛然と走り出して…と言うか虜になれとは言いませんが、お礼くらい言ってくれませんか?」
「かーわーいーいー!摘んでもいい?!」
「好きなようになさいな。私の私有地ですから」
「やった!えへへー連れて帰って花瓶にさそーっと」
「どうぞ、君の気に入る通りに…」
「ねえ安西先生、花冠作れる?」
「うん?…いや、作れませんけれど。君は作れるんですか?」
「作れるよ!センセは作れないんだ?じゃあしょうがないなあ、僕作ってあげるね!」
「それはそれは、ありがとう御座います」
「二人分かー大変だなーもー安西センセが作れないから僕忙しいや♪」
「すみませんねえ、出来ない大人で。…花が編み上がるまで眠っても?」
「えー寝るの?!僕ががんばってるのに?」
「良いじゃありませんか、こう日差しが優しいと眠くなるものですもの」
「しょうがないなー。出来たら起こすからね!」
「ありがとう御座います。ではお休みなさい」
「おやすみなさーい」
「……」
「♪どっんっなー花っよーりータンポーポーのー はっなっをっーあなったーにー送りーまーしょぉー」
「……」
「♪一面に咲くータンポポの花ー ライオンによく似た姿だーったぁー」
「……」
「♪タンポポ食っべってー 愛してみっせってー タンポポかっぜーにー ゆらゆら揺ーれーないぃー…」





「………いやあ、本当に暖かくて良い日和です…風変わりな色のタンポポを、赤く染める気が起きないくらいにねえ」

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