「朝起きたら髪が地面につくくらいまで伸びてるんだけどなんだこれ!また安西先生の仕業でしょ!?」
「可愛いですね、ツインテールにしたら特定方面からお金が貰えそうです」
「いらないよそんな汚いお金は。なんなの今回の意図は?四肢切断したところをおさげにした髪を壁の釘に引っ掛けてオシャレなインテリアにでもしたいのこの鬼畜!」
「私のことを何だと思ってるんですか?」
「鬼畜」
「…。高屋敷君、古来から髪の毛には摩訶不思議な力があるとされています。女人の長い髪には象も繋がるという言葉があるように、一種魔術的なものですらあるのです」
「はあ…」
「またこんな話もあります。ある聖女が無実の罪で裁判に掛けられた時着衣を脱がされることになりましたが、次の瞬間には短かった髪が足元まで伸びて、その裸身を衆人から覆い隠したそうです」
「はあ…なにこの人、髪フェチ?」
「という訳で高屋敷君、脱いで下さい」
「意味が解らないよ!」
「髪に象を括り付けられるのとどちらが良いですか。確かお下げが耕運機に絡みこんでしまい、頭皮から顔面までの皮が剥がれた少女の話がインドネシア辺りにありましたけど」
「そりゃ脱ぐ方だけど嫌だよ!必要性もなく裸になったりなんかしないよ!」
「じゃあツインテールにしてみて下さい。はい少女趣味の服」
「ツインテールすりゃなんでもロリとか思考停止してんじゃないの?」
「我侭ですねえ君は。あれも嫌これも嫌では先生どうすれば良いのか分かりません。君はどうしたいんです?」
「なにもしたくないっていうか、あえて言うなら切りたいってとこかな」
「切ってしまうのですか?折角伸ばしたというのに…」
「やっぱりセンセが伸ばしたんだ…」
「まあ良いでしょう、私が切ってあげますよ。高屋敷君の髪は柔らかくてふわふわですから、触っているだけで幸せな気持ちになれますものね」
「相変わらず、僕は毛皮かなにかのような扱いだなあ。でもいいや、切って切ってー」
「ではいらっしゃい。そこに座って…バスタオルも掛けませんとねえ。それと鋏、鋏と…」
「あのねえ変な髪形にしないでね?伸びる前と同じのでいいからね」
「男の子は現状維持でつまりません。もう少し女の子の変身願望を見習って貰いたいです」
「いいからー。普通に切って」
「はいはい、しかしやっぱり君も男の子ですね。先生感心しちゃいました」
「う?どゆことですか?」
「刃物を持った私を背後に立たせて平気だなんて、なかなか度胸があるじゃありませんか」
「っ!?」
「さて、と…さあ可愛くしてあげましょうねえ高屋敷君…でも先生ちょっとだけ疲れていましてねぇ〜…手元が狂ったりしないように君もお祈りしていて下さいね?」
「ひ…ひ…も、もう、いい、です。僕、床屋さんで」
「おっと、動いたら危ないですよ」
「いつっ?!」
「ほら動くからですよ。ほっぺたが切れてしまいました…可哀想に」
「な、舐めないでくださ…」
「このくらいの傷なら舐めるだけで良いのですけれどねえ、もしこの細い細い高屋敷君の首が切れてしまったら、どうなりますかねえ…ふふ」
「う……うあ…あ…!」
「大丈夫ですよ、君が動かなければ怪我なんてしませんからね。さあ、大人しくしていて下さいな?高屋敷君」


―――――――――――――――


「………」
「うん、可愛く切れましたね。お疲れ様高屋敷君」
「…どうもです」
「ご注文通り、伸びる前と同じように切れましたよ。鏡見ます?」
「うん…」
「どうぞ」
「…ホントだ、前とおんなじだね」
「でしょう?」
「うん、髪が真っ白になってるところ以外は」

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