がらら



「こんにちわ安西先生…なに見てるの?」
「こんにちは高屋敷君。金魚ですよ、可愛いでしょう?」
「金魚?夏でもないのに?」
「金魚掬いじゃありませんもの。金魚専門店を見つけたので、水槽から餌まで一式買い揃えてきたのです。和風アクアリウムも良いものですねえ」
「あー僕この金魚好きですよう。尾っぽ長くてひらひらして綺麗だよね」
「土佐金ですか?そうですね、よくモチーフに使われる種類です。そうそう、これなんか珍しいのだそうですよ?レッサーパンダというそうなんですが」
「それ先生がつけたんじゃないの」
「違いますよ、ほら体色がレッサーパンダに似ているでしょう」
「おなかのところが茶色っぽいオレンジなんだね。出目金だし可愛いね。…あ、これカッコいいねえ!尾っぽがアゲハチョウみたいですー」
「その通り、銀蝶尾と言うそうですよ。手拭いなんかに描かれていそうですが…それにしても君は尾びれが好きですねえ」
「センセは尾びれ好きじゃないの?」
「いえ、大好きです。でも色なんかは気にしないのですか?ほら、これなんか白地に赤と黒が綺麗に散っていて素敵ですよ…オーロラ、とか言いましたっけね」
「うーんとねえ…」
「これも随分変わった色ですよ。茶金出目と言って全身キラキラ焦茶に光っていますし、これは全身真っ白な白鳳です、目まで真っ赤なアルビノ出目金もいますよ。特に珍しいこれはなんと緑色です」
「僕これがいい。金魚すくいでよくいるやつだよね、これ、普通だけど一番好きだな」
「ふうん、やっぱり和金に戻るのですねえ…ま、良いです。金魚らしいですからね」
「?」
「いや何でもありません。それより高屋敷君、先生君の為にお洋服を作ってあげましたよ」
「いきなりなにー」
「どうぞ」
「わ、なにこれ寒そう!透け透けじゃんかー。しかも色派手だよ?こんな真っ赤でよさこいの衣装みたいじゃん」
「何、寒くなどありませんよ。温度はサーモヒーターを入れていますし。それに真っ赤なおべべは可愛い君に良く似合…高屋敷君?何処に行くのです?」
「ぎゃー放せ放せまた水槽に沈められるー!!」
「また?」
「魚にされて水槽生活は割と何度もやられてる虐待だよ!ネタ切れご苦労様ですー!!」
「ああ、そう言われてみればそうですね。でも大丈夫、今度は君一匹だけでなく、仲間が沢山いますからねえ」
「匹って言うな!!それに金魚が仲間でも嬉しくない!僕は人間だから嬉しくないー!!」
「仲間は金魚じゃありませんが…よっこいしょっ…と。はい暴れない暴れない、生きが良いのも困りものですねぇ〜」
「ぎゃああ降ろしてー!いーやーあーー!!
「降ろしません。さあ水槽に入れてあげますね、水草もビー玉の玉砂利も入れた綺麗な水槽ですからねえ、きっと君も気に入りますよ?高屋敷君…」



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温かい水の中


僕がゆらゆらヒレを揺らしていたら


ちゃぽんちゃぽんと仲間が次々やってきた



どれも綺麗なヒレを揺らしていたけど


ある僕は目玉が異常に大きいし


ある僕は頬が異常に膨れている


鼻面が肥大しているのもいたし


目が埋もれる程肉瘤が顔を占めているのもいた



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「金魚は昔、鮒でした。ギベリオという、中国生まれの鮒でした。ある時ギベリオは赤くなって、人がそれを気に入りました。更にそれを交配させて、今の様に畸形の形に固め付けました。今では世界中で、突然変異した鮒の畸形の子供達が愛でられています。君は原種に一番近い、赤いだけの可愛い金魚。畸形の子達は弱いので、きっと直ぐに死んでしまう。だけれど君は一番丈夫でしょうから、皆と仲良くしてあげて下さい。死に行く様を、見届けてあげて下さいね。可愛い可愛い、高屋敷君」







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『…安西先生』
「ん?…ああ、会長君…」
『どうかなさいましたか、御顔が晴れないようですが』
「…金魚が…」
『金魚、ですか?』
「はい…金魚が……餌をやり忘れてしまったから、共食いしてしまったのです」
『それはお気の毒です。せめて、残ったものだけでも愛でてあげれば宜しいでしょう』
「そう…ですね。そうします。一匹以外は皆無事でしたし、残りを可愛がってあげなければいけませんよね」
『ところで、その食べられた一匹というのは?』
「うん?…大した奴じゃないのです。縁日でよく沢山泳いでいるような、在り来たりな金魚でしたから、別段惜しむような珍しい金魚じゃないですものね」

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