「高屋敷君、さっきから一生懸命何を作っているのです?」
「う?これだよ」
「?…紙コップ?」
「糸電話だよー」
「…高屋敷君…!」
「ん?」
「ああ、大学生にもなって糸電話…何て可愛い馬鹿でしょう、ずっとそのままでいて下さいね」
「バカじゃないもん」
「何でも良いですよ。で、完成しました?」
「うん!はいこっち持ってー」
「ええ」
「糸がピーンとならなきゃいけないんだよ。…うん、そうそう!僕話すからセンセ聞いててねー」
「コップを耳に当てずとも現時点で丸聞こえなのですけれど」
「もしもーし」
「あの」
「もしもーし!?」
「あ、はい…キレる事無いと思うのですけれどね。…どうぞ」
「(えへ、もしもーし?)」
「ん、聞えましたよ」
「ほらね?ほらね?ちゃんと出来てたでしょ?よかったー聞えなかったらどうしようかと思っちゃった!」
「そうですねえ、高屋敷君は技術力があるのですねえ〜…でも、反対方向からはどうでしょう?」
「え?」
「私の側から話して、君の側に聞えるかどうかも試しませんとね」
「なに言ってんの?糸電話なんだからどっちだって一緒だよ」
「ああ、本当に半端なところで可愛くありませんね君は。良いでしょう、そこまで自信があるなら試してみようじゃありませんか」
「ふーんだ、子供騙しなこと言うからですー。やってやろーじゃん」
「では、コップに耳を当てて下さいな」
「いいよー」
「ではいきます。(       )」
「あれ?」
「(       )」
「あ、あれー?!聞えないよー!!」
「おやおや、それ見たことか、失敗作だったようですねえ。このまま学会に発表したら大恥をかくところでしたよ」
「ど、どこの学会なの?…じゃなくてなんでぇー?!あーりーえーなーいー!!」
「…………頭悪いですねえ…」
「ちょっと、今なんか言った?」
「え?何か聞えたのですか?私は何も…」
「ホントかな………あ」
「ん?」
「わかったですー!!さっきの口パクしてただけでしょ!?」
「…ちっ……いや、何を言っているのかさっぱりですね。そんなことはしていませんよ」
「ウソ吐け!じゃあ僕のコップとセンセのコップ取り替えたら、そっちが聞えなくなるの?!」
「なるでしょうね」
「…なに、その自信満々ぶりは」
「だってそうじゃありませんか。紙コップ1から2に音波が移動していないことは例え使用者が変わろうと揺らぎの無い事実ですよ」
「急に思い出したけど、そういえば安西先生って理科系の教授だったね」
「今更何を言い出すのです」
「まあいいや、じゃーとっかえようよ!これで僕の声がセンセに聞こえたらなんかお菓子買ってよね!」
「良いですよ?聞こえたらねえ」
「むう、なんでそんなに自信満々なんだろこの人!絶対僕の方が合ってるのに…はい僕の方のコップ!」
「はい、私の方のコップ」
「そんじゃ話すよ!」
「いつでもどうぞ」
「(あめんぼあかいなあいうえおー)」
「…」
「(あれ?もしもーし?)」
「…高屋敷君、早く話してくれませんか?」
「は、話したよ!!」
「おや…ちっとも聞こえませんでした。ということは、やはり紙コップ1から2に音波が移動していないと証明出来ましたね?はい、お菓子はお預けです」
「そんなばかな!」
「良いですか高屋敷君、君が思っているより糸電話というのは複雑なものなのです。君の頭よりもずっと複雑なのですよ。指導を受けたことの無い素人がほいほい作れる代物ではないのです…覚えておきなさい」
「ふ…ふえぇ〜…」
「泣くのではありません高屋敷君!そこで泣いてどうします、それでも技術大国日本の国民ですか?失敗したならば改良を、成功したならば更なる改良を…その精神が今の日本を作り上げたのです。へこたれている暇などありません、さあ技術発展目指して立ち上がろうではありませんか!」
「に、二十四時間働けますかー!!」
「その意気です高屋敷君!若者に未来への希望を与えられたようで、先生、教師冥利につきました。紙コップもタコ糸も大量に用意してあげましたから、成功するまで頑張るのですよ」
「うん僕頑張る!!やってみせるですー!!」
「ああ、それでこそ日本男児ですよ高屋敷君!」



―――――――――――――――



「………安西先生」
「はい?」
「あれから業務用紙コップ500個入りとタコ糸5000メートルを使い切った今気付いたんだけど、さっきのあれ、聞こえないふりしてたんじゃないの」
「…今頃気付いたんですか…?」
「うわーんやっぱりー!?」
「高屋敷君…君は本当に精神発育遅滞ではありませんか?先生本当に不安になってきました…良い医者の知り合いがいますので今度検査に行きましょうね」
「行くかバカ!!技術発展なんか爆発しろやー!!!」

 BACK