バレンタインだから

いつも毒物入りのチョコばっかり貰ってる

可哀想な安西先生にチョコを作ったけど

就職指導室にいても全然帰ってこないし

おなかが空いたので

つい持ってきたチョコを自分で食い散らかしているところに

安西先生が帰ってきました


「ぎゃーあーあーすいませんでしたごめんなさい蹴り倒して米噛みにライフル付き付けないでくださいごめんなさーいぃーーー!!」
「この、馬鹿が…!」
「すいませんー!!今から買ってきますからごめんなさいー!!」
「買ってきなさい。今すぐに」
「は、はい…すいませんでした、ホントすいませんでした…十分で行ってきます」
「五分」
「…はい…」


―――――――――――――――


「…買ってきました?」
「ぜっ…は、はぁ…はぁ……か、買ってきたです…」
「寄越しなさい」
「はい…メリーバレンタインです安西センセ…疲れた……」
「これはどうも。頂きます」
「別にいいじゃない、買ってきたまんまのチョコでいいならここに異常にいっぱい積んであるじゃないこのモテ男が!買ってきたまんまのやつなら劇物も媚薬も髪の毛も血液も経血も入ってないんでしょ?という訳でこれ一個食べるね」
「!? いけません高屋敷君!」
「あいたぁー!?なんで叩くの?!」
「すみません、つい…しかしいけません」
「なんでさ?開封してなにか混入させてから包み直した形跡はないよ?」
「違います…ああ、ほら御覧なさい?ここに針の穴があります。注射器で何か流し込んでいるのですよ」
「…そこまでされる安西先生っていったいなんなの?」
「あっちの箱はカマキリの卵を流しこまれてるんで、開けたら恐ろしいことになりますよ」
「虫系は最悪だなあ…」
「虫じゃなくたって最悪ですよ」
「あれ、そういやこないだ掘ってた塹壕は?」
「今朝来てみたら既にチョコで埋まっていました」
「シュールな図だったろうなあ、チョコで埋まった塹壕を呆然と見詰める安西先生は」
「呆然と言うより、愕然でしたけれどね。怖いですよ、あと十年でおばさんという怪生物にクラスチェンジする女性達は。まあその女性達に混じって友チョコ交換している君には解らないでしょうけれど」
「わかんないほうが幸せっぽいしいいや」
「ふん」
「それよりさ安西先生」
「ん?…どうしました、青い顔でプルプル震えて」
「僕の、背後にある箱から、なんか異音っていうか、その、普通のチョコの箱からはでない音がして、その」
「何言ってんです、それが普通なんですよ私にとって」
「違っ…だって振動してるよ!振動!怖いよ振り向けないよ!!」
「振り向かなきゃ良いじゃないですか。あー口甘くなっちゃいましたんでお茶飲みたいです緑茶。緑茶、高屋敷君緑茶」
「ムリムリムリ動けないよ!!動いたらドカーンといきそうだよー!」
「爆発が何ですか、何度も私に爆弾埋め込まれたりしてたでしょう?」
「そんな人格だから異物を混入されたチョコを送られるんだよ!?愛と憎しみは表裏一体なのに!」
「煩いですねえ、分かりましたよ…これですか?」
「ぎゃーだめだよそんな不用意に!爆発するよ?!」
「良いんです、先生プラスチック爆弾程度なら掠り傷一つ出来ません。服はビリビリですけど」
「僕は!?」
「んー…確かに振動していますけれど、しかし…」
「しかし!?しかしなに?!」
「爆弾って振動しないでしょう?」
「…」
「アニメとか見過ぎなんじゃないですか?それもカートゥンアニメ」
「み、見てないよ…そんなアメリカンナイズじゃないよ」
「まあ良いですけど、何でしょうねえこれ…開封してみますか」
「えー大丈夫?ホントに爆弾じゃない?」
「怖いなら私の後ろに隠れてなさい」
「安西先生って防火シャッターなの?」
「似たようなものと思ってくれて結構ですよ。…覗き込んだら顔だけ吹っ飛びますからね」
「わーそれやだな、むしろ全身吹き飛んで鳥のササミ片になる方がまだいいよね」
「…随分梱包が厳重ですねえ」
「なに?鉄板でも入ってた?」
「………」
「え?」


バン!!


「逃げますよ高屋敷君」
「え?え?」
「早くしなさい!死ぬより辛い目に遭いたいですか…!」
「なにが入ってたの?!なにが入ってたのー!!




そのあと安西先生は

就職指導室ごと校舎を焼いて

炎の茜色に白い顔を染められながら

なにかをぶつぶつ呟いていました

僕は怖くなったのでそっとその場を離れて

走って家に帰って

布団に潜って眠りました


その時見た夢は

チョコレートのお化けに食べられる夢で

僕はすごく怖かった






「…君はその程度で済んだでしょうけどねぇ、高屋敷君…私はそれの百倍以上、拙い目に遭いそうなんですよ

 ああ、全く本当に、バレンタインなんてろくでもない。こんなことなら、逆チョコを用意しておけば良かったですねえ…」


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