「安西先生、この土が凍ってる時期に塹壕なんか掘ってどうしたの?」
「ああ高屋敷君、土が掛からないよう気を付けて下さいね。そしてこれは…少し逃げ隠れをしたいだけなんです」
「逃げ隠れ?安西先生が?」
「今年もまた腐れ胡蝶蘭共が腰摺りつかせてくる時期になりましたからね」
「…?」
「少し下品でしたか」
「下品かどうかも分からないー…」
「アレですよアレ、バレンタインです。毎度毎度いい加減にして欲しいんですよあんな訳の分からないものが混入されているようなブラックホールが出来る質量のチョコレートを一欠け二万以下のチョコレート菓子しか与えられてこなかったこの私が口になんぞ出来ますか」
「ああ…そういやそうだったねえ、安西先生はチョコ好きなのに、バレンタインは嫌いだもんね」
「プレゼント系のイベントが嫌いです。要らない物が大量に贈られるのですもの」
「モテ男も辛いんだねえ」
「あ、だからといって高屋敷君、サボろう何て考えるのではありませんよ?不純物の入っていないチョコを用意するのは君の役目なんですからね?」
「はいはい、わかってるですよー。今年も友チョコ作るしセンセの分も考えてるからだいじょぶだよ」
「それは何より」
「あ、掘るといえばねー?僕さっき園芸部の友達のお手伝いしてきたですよ。春に蒔く種のより分けしてたの。大変だった!」
「それはそれは、ポエティックな良いことをしてきましたねえ」
「お手伝いしたから、咲いたら別けてくれるってさ。就職指導室にも飾ろうね」
「ん、良いですねえ。…さて、こんなものでしょうか?また冷えてきましたし、そろそろ中に入りましょう…いらっしゃい高屋敷君」
「はぁーい」


―――――――――――――――


「安西先生…今、玄関で床に這いつくばった人達に靴の裏舐められたんだけど…」
「ああ、玄関マット科の方々ですよ」
「人権はどうなってるんだよこの学校はー!!」
「春休みでも熱心なことです、なかなか皆さん意欲的ですねえ」
「で、玄関マット科の皆さんが校内を汚さないよう靴裏をキレイキレイしてくれてるのにセンセはなに入っていきなり床も壁も天井も汚してるの?」
「内壁が気に入らないのです、今の私は薔薇の様に燃え立つ真紅に身を焦がされたい。校内のすべての壁面が蘇芳に染まるまで、何人でも殺します」
「しっかりしてよ安西先生!時間経ったら黒くなっちゃうからムダだよー」
「そんな歌が何かでありましたね」
「それに春休みだから人あんまりいないし、校内すべては無理じゃない?」
「現実的なことを言いますねえ君は。ロマンを一つも解っていない。無理だと解っていてもやるのが男というものなので…いや、君は違いましたね。理解しろというのは酷でしたか」
「ぶん殴るぞ!!女装癖に言われたくないよ!」
「女装は飽く迄女装であって、女性ではないのですよ。つまり男性であるが故に成り立つものなんです。生来の女顔に言われる方が不条理ですねえ」
「爆発しろ!去勢しろ!死ねー!!」
「ああ、何だか面倒臭くなりましたね。行きましょう高屋敷君、ココアの用意がありますから」
「行かない!いらない!放せ放せ引きずるなぁー!!」


―――――――――――――――


「はい、君の分のココアですよ。これでも飲んで落ち着きなさい?」
「飲んだところで許さないです!」
「じゃあこのチョコクッキーも追加で」
「…」
「マシュマロも如何です?」
「おいしい」
「良かったですね」
「熱いー」
「火傷しないように気を付けなさいな。…ん、インスタントの割には美味しいですね…やっぱり生き血を入れるとコクが増します」
「なばはっ!?」
「ちょ…きったないですね何吐き出してんですか?自分で拭いて下さいよ」
「その嗜好をやめろー!僕まで巻き添えか!二度目だよ!」
「大丈夫、君のには入れていませんよ。昨今血液感染が恐ろしいですしね。秋葉原の事件とか」
「あ、ああ…そう。いや、じゃあセンセはいいの?」
「私は全然平気です。仮にマズったとしても代えの体は沢山ストックしてますからね」
「気持ち悪くなんないの、そんなもん飲んでさ…」
「さあ。催吐性はあるみたいですけれど、それも結局自由意志で止められるような程度ですしね」
「自由意志だろうと止めてまで飲むもんじゃないと思うけどね僕は」
「ほっといて下さい」
「まあいいけどさ」
「高屋敷君、君はね、やはりまるで女性のようにロマンの理解をしていないのですよ」
「またその話か!!」
「男性の収集癖を女性が理解しないように、その間には高くて厚い壁がある。連続殺人と食人事件には男性が多いって知ってます?これもやはり、支配欲の持つ男性的側面が齎す何かです。そして男性の犯罪者にはXYYの染色体を持つものが多いと言われていますし、女性的染色体が一つ多いXXY染色体の持ち主には大人しい方が多いとも言われます。解りますか高屋敷君、この私が殺人狂なのもある意味では男性としてのあるべき姿なんですよ」
「あのね、そういう誤解を招く屁理屈やめた方がいいよ。あと、センセはどう見てもY染色体が多い人の外見じゃないじゃんこの優男。その細腕で全く気違いのバカ力なんだから」
「ふん。黙りなさいこのX染色体過多男。食い殺しますよ」
「多くないよ!なんでも遺伝子とかのせいにするのやめろよ!引き篭もりもニートも遺伝子のせいじゃないんだよ!」
「何言ってんですか?」
「そっちだよ!」
「では…君の染色体を調べてあげましょうか?別に調べてどうなるものでもありませんけれど、君が言い張るならね」
「え…やだ」
「ほう?ならばやはりXXYの自覚があるのですね?まあ当然でしょうけれどねえその外見では」
「ちがうちがうちがう!!ばかっ!!」
「じゃあ調べても良いんじゃないですか?」
「…だって、もしそれでXXYだったらいやだもん」
「大丈夫大丈夫、きっと普通にXYですよ」
「どの口が言うの?!さっきまでのXXY押しまくりはなんだったの?!」
「まあまあ良いじゃありませんか。調べるんで血を下さい」
「…はい」
「いやいや、手首じゃいけませんよ。細過ぎます」
「え?…ちょ、なんで頭を鷲掴むの?なんで襟首破くのぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!









「…うん、特に普通ですね。XYですし特に病気もないです。もう少し水分を摂った方が良いかも知れませんが、遺伝子的にもなかなか悪くありませんよ



しかしまあ…死人に子孫は残せませんし、君の遺伝子はここで絶えましたねえ☆」

 BACK