「…安西先生さっきからパソコンばっかり!暇ならレポート一緒に考えてよー」
「…高屋敷君は骨食みって知ってますか?」
「骨…なに?」
「骨食み、です。お葬式の風習らしいですよ」
「はー…?」
「焼いた後の遺骨を親類が食すというものらしいです。どうも全国的な風習のようですが、そんなに数がある訳でもなさそうですね。北海道の一部でもやってるみたいですけど、知りませんか?」
「そんなこと調べてたの…」
「やはり知りませんか、残念です…ああ、私もこんなに美味しそうな風習を知らなかったなんて、まだまだ道を極めていませんねえ」
「嫌な道ですこと!」
「さあ高屋敷君その骨を私に食べさせなさい。今まで骨の髄部分しか食していませんでしたが今回ばかりはカルシウム摂取をさせて貰いますよ」
「身内のを食えよ!僕は赤の他人だよ!!」
「じゃあ籍を入れましょう」
「ありきか!!食人ありきの思考回路か!!火葬場に頭から飛び込んで人生やり直して道徳学びなおしてから来い!!」
「息子にしましょうか…いや、私は未婚ですから子供は駄目でしたね、弟にしましょう」
「人の戸籍を勝手に弄るなー!!」
「煩いですね高屋敷君、ただ偏に君の骨を噛み砕きたいという純粋な欲求を邪魔するのですか」
「当たり前でしょ」
「君の思い込みの常識を人に押し付けるのを止めなさい。さてと、判子は拇印で良いのですかね…」
「ふぁいあー」
「は?ぷよぷよ?…あ」
「灰に帰したよ」
「…」
「怒った?」
「…子供がライターを持ち歩いてはいけません」
「そっちなの?」
「取り上げます。全く何ですかこれは、ビューラー温め用ですか」
「はあ?よくわかんないけど拾ったんだよ」
「…まだガスが入ってますね…」
「う?うん」
「…これで人体を骨にするまで焼ける火力が出ますかねえ…」
「出ないよ!出ないから!出な…ぎゃあああああああ!!!
「そういえば都市伝説に勘違いから祖母の遺灰をパンケーキにして食べてしまった話がありましたねえ〜」
ぎゃあああああああああああ!!ああああああああああああああああ!!!
「やはり時間が掛かりますね、火の大きさが小さいですから…時間が掛かるからお話でもしましょうか?そうですねえ…そうそう、昔曾爺様の火葬の時、コーンポタージュの匂いがしたんですよ」
死にゃあああああああああああ!!いぐあああああああああああああ!!!
「どうしてあの時お湯に溶かして飲まなかったのでしょうか…あ、ガスが切れてしまいました」
「ああああ右足首から先が炭に炭にー!!」
「…ガンになるから食べられませんね」
「なんの為に焼いたんだよ!?死ぬー!!」
「やはり火力が…」
「助けてもう止めてもう許して。もう良いでしょ炭でも食べてよ」
「やっぱり火葬場に行きましょうか、素人がやっても火葬にはなりそうにありませんしね」
「いやあああ引き摺るな離せはなせはないやああああああーーーーー!!!



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「という訳で、お願いします。たった一人の弟だったのです、綺麗に焼いてやってくれますか」
『そりゃもう、6000度の火ですから。綺麗に焼けますよ。浄化の炎ですから』
「ありがとう御座います」
『しかしガタガタいってませんかねこの棺』
「いやあ、それがちょっと怨念が残っているみたいでして。大丈夫です、ちゃんと死んでます」
『なら良いんですがねえ。じゃあ焼き場に入れますが、どうします、最後にもう一度弟さんに挨拶しますか?』
「いえ…もう別れは済ませましたから…後は見送るだけです」
『そうですか。いやいいお兄さんだ』


(ガタン、ガコン…バダン!)


「…ところで、この炉の中に爪で引っ掻いた跡があるなんて話がありますけれど、死んだ人が生き返るなんて本当にあるんでしょうかね」
『いや、あれは焼いた時に筋肉が縮みますからね、それが結構な力なもんですから、苦しんで引っ掻いたように見えちゃうんでしょね。昔ならありましたけど、今はお医者さんの判断が間違う事は殆ど無いですよ』
「ですよねえ…すみません、少しだけ…もしかしたら、何て考えてしまいまして」
『皆さんそう仰いますよ。しかし悲鳴が聞こえるんですが、これも焼ける時の音でして』
「そうでしょうね。…これは、どれ位で終わるのですか?」
『完全に焼けるのは、成人男子で大体二時間ってところです』
「そうですか。では、弟の好きだった歌でも歌いながら待ちますよ」
『どうぞ向こうに座間がありますので、ご利用下さい』
「ありがとう御座います…


 ♪私のー…願いはただーひーとつー…骨までー…骨までー…骨まで愛して 欲しいのーよー…」

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