「…高屋敷君」
「ひゃああ!?」
「おやおや…ふふ、そんなに驚きました?」
「あ、安西先生?!びっくりしたびっくりした!なんなのそのお面!?びっくりした!」
「古物商から譲り受けましてね。中世の劇場で実際に使われていた死者と霊鬼の仮面ですよ」
「え?ごめんなさいよく聞こえなかった。お面のせいかな、篭って…」
「古い劇に使われた、仮面です。よく出来たものですね」
「ふうん…でもすっごい怖い顔…もうそれとってよ先生、僕怖い」
「まあ事実、仮面は特にギリシア悲劇では魔術的機能が担わされていましたからね。怖くて当たり前かもしれません」
「?」
「つまり、この篭った声は、漏れ出る声として地獄から来た者だと思わせるのです。本来の声を歪め、遠ざけ、地の底から這い上がる声を作り出すのですよ」
「はあ…ただ怖い顔作ってるわけじゃないんだね」
「少しは面白く思えましたか?」
「うん、でもやっぱり怖いよその仮面。取らないの?」
「しかし仮面を被っているからといって、その下の素顔が仮面と同一で無いと誰が言えるのでしょう?素顔を隠す仮面ではない、仮面を被っていることを知らしめて、その下には全く別の素顔があるのだと信じ込ませる。賢い愚か者を騙すのに之ほど良い方法があるでしょうか?」
「…え?」
「高屋敷君、君は本当にこの仮面を取ってもらいたいですか?この仮面の下には美しい顔があると思いますか?この仮面の内の声は美しいと思いますか?」
「あ…あ…」
「さあどうします、高屋敷君…?」
「と、取らないで!そのままでいて!!そのまま…取らないで」
「ではそうしましょう、君がそちらを選ぶなら…」
「…」


―――――――――――――――


「…高屋敷君」
「っ!…な、なに?」
「この部屋暖房効き過ぎてませんか?」
「え…う、うん…そうかな?」
「こんな物被ってるからですかね、ああ視界が狭くて鬱陶しい、外しましょう」
「…え?」
「ふう…だいぶ涼しくなりました」
「……」
「ん?」
「さっきの思わせぶりはなんだったのー!?」

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