……ぱたぱたぱたぱた…ガララバシャン!

「安西先生!安西センセー!!」
「おや高屋敷君、こんにちは」
「こんにちは!ねーそれより聞いて聞いて!?うちの大学ってでっかい宝石があるんだって?!」
「ああ、何だか大層な名前がついたルビーがありましたっけねぇ」
「『ユダの心臓』でしょ?ホントの心臓くらいおっきいんでしょ?すごくない?!」
「あー、そういえば学長が何かの錬成の材料にすると言って買ってましたね…別に、私は宝石の類は曰く付きじゃなきゃ興味無いです。最低三人は不幸になっていなければ」
「ひどい趣味だね…でもでも!なんかそれ目当てに怪盗から予告状がきたんでしょ!?すごくない?すごくない?小説みたいー!!」
「んー…まあ、ね…しかし二十一世紀にもなって怪盗とはね…今の御時勢不景気ですし、華々しい犯罪も夢があるといえばありますが…」
「えーなにその反応?センセ知らないの?怪盗トリツキだよ?ここんとこ新聞の一面飾りまくってるんだよー?そんなすっごい怪盗にうちの大学が狙われてんだよ?なんでそんなに冷めてんのさー?」
「疑問符多いですね…君こそちょっと騒ぎ過ぎじゃあありませんか?確かにどんな厳重な警備でも予告したものは絶対に盗む、とか何とか言われてますけど…犯罪者は犯罪者。英雄視なんてするものじゃありませんよ」
「もー先生ったらつまんないの!」
「それはすみませんね、ロマンの無い人間で」
「はー…ドキドキしちゃう…お話の中にしかいないと思ってたのに、ホントのホントに神出鬼没の怪盗がいて、僕の学校のおっきな宝石盗むんだ…あードキドキするぅー」
「やれやれ」
「ねーねー安西先生は盗まれないよう罠張ったりしないの?!まさかみすみす盗ませたりしないでしょ?」
「私はやりませんよ、会長君に任せきりです」
「ええー、なんでぇー?探偵になって怪盗と一騎打ちしてよー」
「何故私が…」
「美形だから絵になると思って」
「なら会長君に任せなさい。彼も相当なものでしょう」
「えー、えー、でも会長はそんなにノリよくないもん…」
「とにかく私は面倒なのでノータッチです。予告状だと今夜に来るんでしたっけ?」
「うん、でも警備とか全然してないよ。大丈夫なのかな?」
「まあ会長君のことです、何か作有っての手薄でしょう。…そうですねぇ、会長君に君を傍に置いておくよう話を通してあげますよ。私はこれで帰りますが、君は残ってその怪盗と探偵会長君の一騎打ちとやらを見学しなさいな」
「え。いいの?!」
「邪魔にはならないようにね」
「うん!わーじゃあじゃあ僕助手ってことですねー!?やったぁ!いってきまーす♪」


―――――――――――――――


『…成る程、そういう訳か。安西先生が仰ったなら君を入れない訳にはいかないね』
「わーい!」
『もう直ぐ予告の時刻だから、警報装置とかを作動させないとな。高屋敷君、うっかり引っ掛からないでいてくれるかい』
「うん、僕見てるだけだから動かないよ」
『あはは、どこが助手なのか解らないね。でもその方が助かるな、死体を片付けるのは面倒だから』
「死ぬような罠が…」
『宝石だって安くはないんだよ。生徒会の予算の倍ぐらいするんだから、盗られる訳にはいかない。学長先生直々からの命だし』
「倍で済むの?それは生徒会の予算が凄く高いってこと?」
『ああ、あと三十秒だな。高屋敷君気を付けて…!』
「きゃあ?!」
『…ブレーカーが落とされたか。大丈夫だよ、死亡トラップは自動発電で動いているから』
「あうう、でも真っ暗で怖いですー!!」
『まさか。真の闇なんてこの世に無いよ、暫くすれば眼が慣れるから瞬きしてごらん』
「う、うん……


 え?」


僕が瞬きを一つした隙に

悪魔はもう付け入った

差し込む薄白い月の光に助けられ

辛うじて黒ずくめの姿が闇に浮く

シルクハットとマントの怪盗は

顔を覆う仮面の下から

地獄拠り響く声で僕らに夜の挨拶をした


【やあ、今晩は…予告通りに、ユダの心臓を貰い受けに来ましたよ…】
「うわわわホントに怪盗だ!か、会長なんとかして…ってカイチョー!?なんで全トラップ解除してんの?!」
『何でも何も、安西先生に怪我を負わさせする訳にいかないだろう?』
「え?」
【…】
「あれ?」
【…はあ…全くどうして君は直ぐバラしてしまうのです?」
「ぎゃーホントに安西センセだ!!なにしてんのアンタ?!」
『申し訳ありません、安西先生。外した仮面が煩わしいようでしたら預かっておきますが』
「お願いします。…そして高屋敷君、君はどうして直ぐに私と気付けないのです?ペット失格ですよ」
「し、知らないよそんなの!っていうかなにしてるのったら?怪盗にも曰くの無い宝石にも興味ないんじゃなかったの?」
「それはまあ、怪盗なんて馬鹿やっているのはお膳立ての為です。そして、つまり曰く付きの宝石なら私は欲しいのですよ」
「…お膳立て…?」
「そうですねぇ、例えば…
或る怪盗の手によって、探偵の助手がこのルビーで撲殺されたとか」
「え」







ドゴキャ!

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