がらら


「…安西先生」
「おや、高屋敷君こんにちは。どうしたんです青い顔で?」
「…ねえ、僕、未成年だしさ、どうしていいかわかんなくてさ…」
「…後ろに何を持っているんです?」
「安西先生?」
「はい」
「僕のこと助けてくれる?」
「はあ」
「ちゃんと返事して」
「私は君のことを助けてあげます、高屋敷君」
「ありがとセンセ。大好き。じゃあ言うんだけど、びっくりしないでね?」
「はい」
「コインロッカーで赤ちゃん拾っちゃった」
「…は?」
「この子」
「…」
「寒いと思ってコートに包んで連れて来た」
「…」
「…」
「高屋敷君」
「なに?」
「君のことを助けてあげようと思うのですけれどね」
「うん」
「処分と保護のどっちが良いですか?」
「保護だよ!!やっぱり暗黒街の黒魔術師に頼った僕が馬鹿だった!!」
「あー、いやすみません。ほら、ちょっとしたジョークだったのですよ?固まった空気を柔らかくしようと…」
「余計固くなったよ。ホントにもうやめてそういうの…いいから助けてくださいー」
「解っていますとも。えー何でしたっけ?処分でしたっけ」
「保護だって言ってるでしょやっぱりジョークじゃねえ!!」
「すみません間違えました。丁度来週の儀式に赤子の生血が必要で…」
「警察呼ぶ」
「冗談ですったら、そんなに怖い顔をしないで下さい」
「先生が言うと冗談じゃないの!!もういいやっぱり僕センセなんか頼らないー!!」
「あーあーすみませんすみません高屋敷君、待ちなさいな?ほら粉ミルクですよ」
「え…どっから出したの?」
「大丈夫、砒素は入っていませんから」
「…」
「高屋敷君、帰らないで下さい。冗談がつまらないことは謝りますから」
「わざとでしょ」
「はい」
「次は無いから」
「はい」
「それでどうすればいいと思う?警察に連絡すればいいのかな?」
「まあ普通はそうなんでしょうね。しかし…」
「しかしなに?」
「言ってしまえばこの子は捨て子ということになります、恐らく捨てた方は見付からないでしょうし…このまま警察に引き渡せば孤児院行きでしょう。孤児院が悪いとは言いませんが、やはり通常の家庭環境とはまるで異なります…リスクは高いと判断せざるを得ませんね」
「ふえ…」
「だから取替えっ子にしましょう」
「…え?なに?人身売買?」
「人聞きの悪い…違いますよ、妖精の子供と取り替えるのです」
「いい年してファンタジー語ってるの?」
「君こそ今更何言ってんですか。安心して下さい、連れて行かれた人間の子は妖精に可愛がられて育…いや、育ちません。赤ちゃんのまま永遠に生きますから、幸せに暮らしますよ」
「幸せかなあそれ」
「人によっては、ね。私は御免ですけど」
「えー…」
「まあまあ良いじゃありませんか。それとも君に何か良いアイデアでも?」
「ないけどぉー…大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、大丈夫じゃなければ壊滅させてやりますから」
「妖精界を!?」
「女王の弱みなら800個くらいは握ってますしね」
「フェアリーマザーの弱みを…そんな邪心に満ちた心でどうして妖精に詳しいの?」
「人外じみた力は便利ですよ。さあ、その子を寄越しなさいな、柔らかい産着に包んで揺り籠に寝かせましょう。一晩傍に誰もついていなければ、勝手に妖精が連れて行きますから」
「ホント〜?」
「ああ、良い疑いの目ですよ高屋敷君。ピーターパンでは子供の『妖精なんて信じない』という言葉で妖精が一匹落ちて死ぬと書かれていましたが、君のその目だけで千匹は掃除機に吸い込まれて死んでいそうですよ」
「やなこと言わないで!」
「信じられないなら…そうですねえ、連れて行くのを覗いていたらどうですか?」
「え、でも、それって僕怒られないの?」
「そこの戸棚に隠れていれば大丈夫でしょう」
「でも…」
「まあ、見付かったら君も連れて行かれるかもしれませんね、幼いですし」
「やっぱ覗かない!」
「そうですか?まあ、賢明ではあります。それではもうお帰りなさいな、君も連れて行かれる前にね」


―――――――――――――――


「おはよう安西センセー…どうだった?昨日の子」
「ああ高屋敷君、おはよう御座います。心配せずともちゃんと連れられていきましたよ」
「そう…ところでなに抱いてるの?………これ、なに?」
「何って、妖精の取替え子ですよ」
「え?!取替えっ子ってホントに取替えっ子?代わりが来るの!?じゃあこれ妖精?!」
「はい。今はお世辞にも可愛いと言えませんけれど、成長したらとても綺麗になりますよ。但し魔性の子ですけど」
「魔性?」
「解りやすく言うと私みたいになります」
「うわぁ」
「引き取ります?育てるのは簡単だと思いますけど」
「悪いけどいらない」
「そうですか。では私が引き取りましょう。何かと利用価値があるので、良いものですよ」
「なにに使うの?」
「…」
「センセは都合が悪いといつも黙るね」
「いえ、今のは何に使おうかと考えていた沈黙です」
「ホントかなあ…大体先生が育てるって時点で人間の子でもヤバく育つ気もするんだけどな」
「失礼な子ですねえ」
「だってそうだもん。やっぱり僕が育てようかな、育てるのってどれくらい簡単?」
「ミルクさえ飲ませときゃほっといて大丈夫。程度ですね」
「簡単だねえ」
「妖精は自由に生きるのが基本ですからね。…で、どうします?君が育てますか?」
「うーん…やってみていい?出来たら様子見に来てくれると嬉しいな、僕妖精の健康状態とかわかんないし」
「勿論、構いませんよ」
「じゃあ貰ってくね。名前なんにしようかなあ…」


連れ帰ったはいいんだけど

このこ泣かないし笑わない

なんだかとても怖いです

て言うか段々安西先生に似てきたような


一週間したら笑うようになったんだけど

なぜかもう成人男子になってるし

て言うか安西先生そのものになっているような


ねえ安西先生

もしかしてだけど

安西先生って人間じゃなくて…

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