…がちゃ!


「あったー!!センセあったよー!もーうちの図書館でっかいから探すのも取りに行くのも大変だったよう!すっごい上の方にあったからハシゴ使ったら一回落ちたし…って安西先生!?寝てないで起きてー!!」
「…うん…?」
「持ってきたのーファウストの絵本ー!読んでぇー」
「……ああ、そうでしたね。あまりに遅いから眠ってしまいました…ぁ、ふあぁ……ここ温かくて気持ち良いですねえ…」
「泣くよ?早く読んで?」
「はいはい、いらっしゃい」
「膝乗ってもいい?」
「どうぞ。…さてと…じゃあ、読みますよ。因みに、この絵本はゲーテの『ファウスト』を使っています。池内 紀訳ですから読み易いですよ」
「うん」
「では、ええと…


天上の序曲
 天使たち(ラファエル、ミカエル、ガブリエル)の合唱とともに壮麗に幕開けられた舞台に、誘惑の悪魔メフィストーフェレス(以下メフィスト)が滑稽な台詞回しでひょっこりと現れ、主(神)に対してひとつの賭けを持ちかける。メフィストは「人間どもは、あなたから与えられた理性をろくな事に使っていやしないじゃないですか」と揶揄し、主はそれに対して「常に向上の努力を成す者」の代表としてファウスト博士を挙げ、「今はまだ混乱した状態で生きているが、いずれは正しい道へと導いてやるつもりである」と述べる。メフィストはそれを面白がり、ファウストの魂を悪の道へと引きずり込めるかどうかの賭けを持ちかける。主は、「人間は努力するかぎり迷うもの」と答えてその賭けを容認し、かくしてメフィストはファウストを誘惑すべく、地上に下ってゆくのであった。

第一部
 ファウストが悪魔メフィストと出会い、あの世での魂の服従を交換条件に、現世であらゆる人生の快楽・悲哀を体験させるという約束をする。ファウストは素朴な街娘グレートヒェンと恋をし、子供を身ごもらせる。そして逢瀬の邪魔になる彼女の母親を毒殺し、彼女の兄も決闘の末に殺す。そうして魔女の祭典「ワルプルギスの夜」に参加して帰ってくると、嬰児殺しの罪で逮捕された彼女との悲しい別れが待っていた。

第二部
 皇帝に仕えることにしたファウストは、メフィストの助けを借りて経済再建を果たす。その後、絶世の美女ヘレネーと美男パリスを求め、ギリシャ神話の世界へと、人造人間ホムンクルスやメフィストとともに旅立つ。ファウストはヘレネーと結婚し、一男をもうけるが、血気にはやるその息子は死んでしまう。現実世界に帰ってきた後ファウストは皇帝を戦勝に導き、報土をもらう。海を埋め立てる大事業に取り組むが、灰色の女「憂い」によって失明させられる。そうしてメフィストと手下の悪魔が墓穴を掘る音を、民衆のたゆまぬ鋤鍬の音だと勘違いしながら死ぬ。その魂は、かつての恋人グレートヒェンの天上での祈りによって救われる


 …お終い」
「あれ?今ウィキペ…
「面白かったですか?」
「う、うん。でも安西先生これのなにが好きなの?面白かったことは面白かったけどー、絵本じゃなかったら心底読む気にならない厚さの本でしょ?」
「んー、解りやすい所で言えば、登場人物がとても魅了的だからですかね。特に両主役が」
「凄い天才のファウストとー、悪魔のメフィストフェレス?」
「ええ、超錯乱的と同時に異常明晰の行動家。極端な虚無主義の残酷な冷笑家。素敵じゃありませんか」
「そうかなあ…」
「そうですよ、とても人間的です。私はそんな両極の性質を持つ人間になりたいと、いつも思っているのですよ」
「んー、なんか人のよさそうな性質じゃないねえ」
「良いのですよ、優しい人には君のような良い子がなればそれで良いのです。…素直な人達は恐ろしいですからね…私はそんな、綺麗な方達には近付きませんよ」
「よくわかんない…」
「解らなくて良いのです…君は何も知らなくて良いのですよ、君には無垢なままでいて欲しいのです……さあもうおやすみなさい?眠たくなってきたでしょう?」
「…うん…」
「おやすみなさい、高屋敷君…可愛い可愛い、何も知らない高屋敷君…」
「……すぅー……すー…」
「…清らかな君はマルガレーテ。我を忘れた男と破滅を愛する悪魔に騙されて、罪を犯して死に絶える…」
「すー……くー……すくぅー……」
「可愛い私のグレートヒェン、そして他愛無いネンネちゃん、今は腕の中で心地好く眠りなさい…目覚めた時、君は自らが犯した恐ろしい罪を知るでしょうからねえ」









「……んぅ……寒…って寒い!え?あれ?!全裸!?僕全裸!!ちょ…先生?!どこ行ったの!?ぼ、僕寝てる間になにしたの?!ね…ちょっと…安西先生!?安西先生ーー!!?


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