がらら


「こんにちわー安西先生…なあっ?!」
「こんにちは高屋敷君、足元に気を付けてあげて下さいね」
「うわーうわー物凄い数のウサギ…どしたのこれ?」
「勝手に集まってきてしまったのですよ、外は寒いですからねえ。可愛いものです」
「いや…野良ウサギってこんないないでしょ普通」
「可愛いですねえ」
「…そうだね」
「しかも、美味しいのですよ」
「はい?」
「美味しいのです」
「…」
「お昼は兎鍋でした」
「ねえどうして食べるの?可哀想じゃない!」
「だって自分から鍋に飛び込んできてくれるのですもの」
「えー…?」
「可愛いでしょう?自分から食べて欲しがるんですよ、とても可愛いですよね」
「うん…まあ…当人達が幸せならもうどうでもいいや」
「そんなに投げやりにならなくても良いじゃありませんか」
「あー疲れた、なんかどっと疲れたー」
「ああ、兎は可愛いですね…高屋敷君は出雲神話なんて知っていますかねえ」
「兎の毛を毟ったり裁いたりしながらなに言ってんの?」
「ワニを騙そうとして、調子に乗ってしまい、騙されたと気付いたワニ達に白い毛皮を赤剥かれ、痛い痛いと泣いていたら八十神に塩水で身を洗い天日に干せば治ると騙され、その通りにしたら痛くて痛くて、余計に泣いているところを大国主神に見付けられ、真水で身を洗いガマの穂を集めた中で眠れば良いと言われ、その通りにして漸く元の姿に戻れたというお話です」
「はあ、さいですか…なんか自分が悪いとはいえ可哀相だね」
「ええ…本当に…」
「ん?」
「本当に、可愛いですね…!」
「なんでそんなに力籠もってんの」
「ばっ…解らないのですか高屋敷君!?あの白くてふかふかで小さな兎が寄って集って暴行を受け、剰え親切を装った追い打ちの虐待にあい、最後は綿に包まって眠るのですよ!無邪気な兎が!痛め付けられ、騙され、愛されるのです!ああ、そのワニ達と八十神と大国主神が全て私の担当なら良かったのに…!」
「すっげードSで甘やかし趣味…気持ち悪いなあ。その辺が兎に対して食欲と愛情を同時に覚えられる原因なんだろうね」
「こちらの白兎はロースト兎、兎は脂身が少ないので背や股に脂身を差し込んでベーコンに包み焼きながら溶かしたバターをかけ直し、五百グラムに付き十五分間オーブンで焼きます。こちらの仔兎は一分間ソテー、骨が柔らかいので砕けないように皮を剥ぎ、ソテー鍋にたっぷりのバターと白ワインを入れて焼くのです。こちらの青兎は兎のひしおと肺のなま造り、ひしおは漬け込んで三月かかりますから置いておくとして、肺は完全に傷の無いものを一対用意します。口で血をよく吸い出し、冷水に浸してから又吸い出ししっかりと血抜きをしまして玉葉のようになるまで繰り返す。次に蜜とバターとヨーグルト、戻した干し杏、生姜汁を加えて濾して滓を取り除き、濡れ布巾で覆って氷を用い冷やした肺に。灌袋を使って先程の汁を詰め込みます。あとは、宴会の席で食べる直前に切り分けましょう」
「…僕、それいらないから」
「ん?ああ、残念ながら元から君に食べさせる予定は入れていませんでしたよ。本当は一緒に食べたかったのですが、しかし流石に二つ同時に行えることではありませんものねえ…」
「はえ?どういうこと?」
「…高屋敷君、よく聞いて下さいね。これは私の個人的な人生観なのですが…」
「?」
「世界は結局自己認識で成り立つのです。私が消えれば私にとっての世界は消える。それはまた君も然り。その後も世界が続くだなんて、私は知ったこっちゃありません。だからやっぱり、この世界は私がいなければ成り立たない。つまり、自己認識が世界を創造すると結論が付く」
「…?…」
「だからですねえ高屋敷君?私が君を兎と同一だと…兎だと思い込めば、君は兎になるのです」
「……え、あ、ウソ」
「可愛い可愛い兎君、さあ君も皆の仲間になりましょう…?」
「なんで…ちが、僕鍋に飛び込みたくなんか無いのに…」
「そう、そう、良い子ですね…大丈夫、苦しくなんかありませんよ。苦しませたら、肉の味が落ちてしまいますからねえ〜…」





…ドボン


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