「こんにちは高屋敷君、冬休みですね。時間の余る冬休みです。隣は一体何する人ぞ?」
「急に来て意味不明なこと言うの止めてくれない。…ちょ、勝手に上がらないでよ雪払って雪ー!」
「高屋敷君、このパソコンネットに繋げてますよね?」
「うん…なに?センセのパソコン壊れでもしたの?」
「いいえ?ただちょっと…君のネットでの如何わしい遍歴を調べようと思いましてね」
「…はえ?」
「さあ見せなさい君の性癖を!どんな女性が好みなんです?何杯でもいける画像はフォルダの奥の奥の階層に保存してありますか?【新しいフォルダ(2)】とかつけて保存してあるんですか高屋敷君?!」
「やーめーてー!!どうしてそんなお母さん的な嫌がらせするの?!お願いだからやめてー!!」
「その反応…ふふ、やはり見ているのですね…まあ男たるものネットに繋げて如何わしいサイトを見ていない筈が無いですものねえ?おまけに一人暮らしで寒い冬休み。カキ時ってやつですものねぇ〜?」
「変態変態あっちいけ!!って言うか見てないし!!」
「なら見ても良いですよね☆さあどんな系統のが好みなんですかねえ高屋敷君は☆」
「うわーん!!」



「………」
「…あのー…お茶煎れたけど…」
「………」
「そんな、核ミサイル発射スイッチを欲しがる顔でやさぐれなくてもいいじゃない…」
「…何故なんです…お気に入りを漁っても出てくるのは人畜無害なものばかり、履歴を一年遡ってもワンクリック詐欺の広告しか見付からない、ファイル検索で.JPGや.AVIを調べても一つも引っ掛からない………君本当に男の子なんですか…」
「だって別に…あのお茶…」
「……もしかして、君は車のマフラーに欲情する性癖なんですか?」
「なんの話?!え、なんの話!?」
「違うのですか…いや、アメリカにそんなような人がいたのを思い出しましてね。女性に興味が無いだけなのかと」
「だからってなんでいきなり車のマフラー?…ねえもうこの話やめていい?」
「いけません!高屋敷君たら異常ですよ異常!」
「じゃあいいや、シカトしよ。お茶飲まないなら僕が飲むから。みかんは食べるの?」
「食べます」
「はい」
「…何でこれ絵が描いてあるんですか?」
「え?可愛いでしょ?それトリ。僕のは犬ー」
「…こんなことばかりしているから…」
「なに?食べたくないの?」
「食べます。…甘いですねこれ、どこで買ったんです?」
「そこのスーパーだよ。箱買いだからちょっと重かったなー」
「ふうん、後で私も買いに行きますかねえ」
「あ、センセ鞄についてた雪溶けてるよ?革でしょそれ、シミになるから拭きなよう」
「ん……おや鞄の中にこんなものが。高屋敷君、これを見て下さい」
「…なにこれ?」
「イモリの黒焼きです。この肝は代表的な媚薬ですね」
「それで?」
「とは言え、古くからは言うまでも無く昨今にも出回る媚薬というものが全てただの興奮剤か滋養剤。性感のみを高めるようなものは事実上存在しないのです」
「だから?」
「つまりこの黒焼きも単なる滋養剤であり、摂取してもなんら影響ありません」
「で?」
「だから高屋敷君、食べて下さい」
「断る!!」
「何故ですか?」
「気持ち悪いから。効果の程は問題じゃなくて気分の問題!」
「折角作ったのですが…まあ、私は媚薬が幻想だと知っていても与えられれば摂取しますし、効いたふりして搾り取りますけれどね」
「黙れ!!…大体効果無いならなんで作ったの?」
「イモリが私の研究室の壁に張り付いていたのですよ。だから捕まえて試験管の中で包み焼きしたのです」
「遊びで小動物の命無駄にしちゃダメだよ」
「それは神にでも言ってやりなさい」
「そんな知り合いいないよ。もう、どうするのこれ?無駄に殺しちゃったら浮かばれないじゃない」
「優しいですね君は…そうですねえ、お酒にでも漬け込んで滋養酒にしましょうか。効くかどうかはさて置いて」
「美味しいのそれ?」
「さあ?…お酒で思い出しましたけれど高屋敷君、君はコンパとか行ってるんですか?」
「コンパ?行かないよう。友達と飲みには行くけど、僕はジュースだよ」
「はあ〜…君という子は大学生の楽しみを何も解かっていないのですねえ。そうやって素面の人間にべろべろに酔っ払った自分達の世話をさせるのが面白いんですよ」
「酷い人だね…」
「あとはお持ち帰りまで持ち込ませるとより面白いことになります。その後の騒動の規模を考えれば彼女持ちが狙い目ですね」
「お持ち帰り?なにを?」
「…。合コンなんかには参加してます?」
「えー一回行ったけどフツーの飲み会と変わんなかったよ?でも女の子がねーお菓子くれたよー」
「メアドは?」
「もらったよ!」
「おや、ちゃんと押さえてるんですね。…でも何故こんなに不安なのでしょう?」
「あのねーこんど美味しいクレープやさん連れてってくれるんだ!おみやげ買ってきたげよっか?」
「高屋敷君…」
「なに?」
「このイモリの黒焼きあげましょうか?」
「いらないよう、クレープに合わないもん」
「…私のせいなのでしょうか、このどうしようもない幼さは…」

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