「あ、安西先生。ぐーぜんっ。お買い物行ってたの?」
「おや高屋敷君こんにちは。ええ、少々必要に駆られまして」
「なに買ったのー?…紅茶とバラと、ミルフィーユにテディベア?なにこの少女趣味」
「いやいや、お客様用なんですよ。可愛らしいお姫様を一人待たせているのです」
「ふーん?就職指導室に?」
「ええ。ですので、早く帰ってあげなくては…君もいらっしゃい、同年代の子ですからお友達になれるかもしれませんよ」
「ホント?だといいけど」


ガララ…


『…なんでこんなに遅いわけ?大体どうしてボクが来る前にお茶も用意してなかったの?ホントに気が利かないんだから!』
「すみません、待たせてしまったようですね。君の好きな茶葉の銘柄が分からなかったもので…」
『ふん!言い訳なんてダサいことやめたら?』
「申し訳ないと思っていますよ、心から…ですので、お詫びの贈り物を」
『え?…あ、これ…ボクに?』
「気に入って貰えましたか?」
『うん……可愛い。バラも、綺麗…』
「…ふふっ、良かった。やはり君は笑っている方が素敵ですよ」
『やっ!?な、なに言ってるの聡美のくせに!ばかぁ!ひ、ひ、人を待たせといて格好付けたって、全っ然!格好よくなんてないんだからね!!勘違いしちゃってバッカみたい。べーだ!!』
「はいはい」
『きぃっ!なんなのその態度?!謝りなさい!あーやーまーるーのぉーー!!』
「やれやれ、解りました…ごめんなさい。ほら、謝りましたから地団駄を踏まないで…」
『全然ダメ!心籠もってなーいー!!ボクが地団駄踏んだって勝手でしょ?もっと踏んでやるんだから…きゃあ?!』
「おっと」
『いったぁい…もうなに?…っていつまで抱いてるの!放してよ!!』
「転びかけたから助けたのですが」
『ふ、ふん!聡美なんかに助けられなくたって転ばないもん。今のはちょっと靴が……あっ』
「おや…ヒールが折れたんですね」
『…うー…』
「そんな慣れないパンプス履くからですよ?歩いてもふらふらしてたじゃありませんか。君にヒールはまだ早いです」
『ふんだ……別に、別にいいもん。ヒールなんて、別にお洒落したかった訳じゃないし!聡美に見せたかった訳じゃないし!いいもん!!』
「ん?見せたかったんですか?」
『は!?違、違うって言ったじゃない!耳変なんじゃないの?!ばかばかばか!聡美なんかにお洒落みせてどうするのさ、バッカじゃない?自意識かじょーだし!』
「ふぅん?…ま、もう少し大人になったら新しいパンプス買ってあげますよ」
『え?…ほ、ホントに?!』
「ええ、本当ですよ。…おや、何を壁と仲良くなってるんです高屋敷君?」
「僕じゃん…どう見てもそれ僕じゃん…ピンクのロリータ服着て真っ赤なリボンを結んだちっちゃくてキュートな女の子だけど今日はちょっぴり背伸びしてエナメルのヒールを履いてみたからいつもよりオトナに見えるでしょ?だから子供扱いなんてしないでよね!な僕じゃん…」
『な…ななななんなのこの子!?いきなりヒトのこと…聡美!誰なのこの子?!』
「高屋敷智裕君です。きっと君と仲良くなれると思ったのですが…」
「や、ムリ。ツンデレさんと仲良くする甲斐性ないから僕」
『ボクだってこんな子と仲良くしたくなんかないんだから!…この子聡美のなんなの?』
「生徒であり友人ですよ」
『…それだけ?』
「と言うと?」
『っ…なんでもない!もう、聡美のばかっ!』
「?…」
「わーめんどくさあ〜…センセ、僕今日隅っこで見てるだけにする。不参加。二人でよろしくやって」
『ふん、勝手にすればいいじゃない。聡美はボクと遊ぶでしょ?当然!』
「しかしですねぇ、私は二人とも大事ですし…」
『うるさいうるさいうるさいのー!!聡美はボクの言うこときいてればいいの!分かった?!』
「やれやれ…分かりましたよ、お姫様」
『お…お姫様…?』
「ん?何かおかしな事を言いました?」
『なんでもない!』
「そうですか?…ああ、忘れていました。お茶をいれましょうね、少し待っていて下さいな?このぬいぐるみでも抱いていたら淋しくないでしょう」
『はあ?別に淋しくなんかない!』
「じゃあ要りませんでしたか」
『ち、違…そうは言ってないでしょ?仕方ないから貰ってあげる!聡美に貰ったって嬉しくないけど、ぬいぐるみは可愛いし…だから、だから、早く頂戴ったら!』
「ふふ、よく怒りますねえ…あげると言っているじゃありませんか。はい、どうぞ」
『お、お礼なんか言わないからねっ』
「構いませんよ、私があげたくてあげただけですから。…さあ、お湯を沸かしましょうか」
『あ…』



安西先生が紅茶をいれている間

僕子ちゃんはその背後で真っ赤になりながら

ちょっと困った顔でもじもじしたり

上目遣いにこそっと先生の様子を伺ったり

ぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて顔を埋めたりしてる

やだなあ気持ち悪い

僕はそれをすっかり白けた目で見てた


女の子ってバカだよね

王子様の顔して近付いてくる奴は

どいつもこいつもロクデナシ

骨までしゃぶられて

カサカサになった頃捨てられる

僕は同情なんてちっともしない

バラとミルフィーユの甘い匂いに誤魔化されて

あの子は気付いてないけれど

紅茶には飛び切りの睡眠薬が入ってる

これからどんな恐ろしい目に会うのか

それは僕の知ったことじゃない


僕はなんにも興味が無いから

ここにただぼんやり座って

バカなお姫様と怖い王子様を眺めている事にする

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