「冬ですね高屋敷君」
「う?んあ、そうだねえ。雪も積もったしー」
「雪山に遭難でもしに行きましょうか」
「一人で行って来て。その方が平和だし」
「つれない事を言わないで下さいな、一人で行ってはどうして始めはお互い人肌で暖めあって
いた関係が互いの肉を喰らい合う関係に陥れましょう?」
「分裂でもなんでもすればー」
「おかしいですねえ、暖房は入っている筈なのに高屋敷君がこんなにも冷たいです。ねえ高屋
敷君いっそのこと君を物理的に冷たくしてあげましょうか?勿論葬式の準備もね」
「ごめんなさい!!」
「まあ面倒だから行きませんけれどね」
「なら言わないでくんない?なんでそんなに悪趣味なのか僕全然わかんない」
「…♪マーリワナ伯爵 喜びのキーッス…」
「ごまかされた。全然ごまかせてないけど」
「♪おーれを責めーなくたっていーじゃない 人の欲ぼーのせいだろー」
「歌い続けるの?」
「いや、この辺にしておきます」
「そう」
「みかんを食べてるのですか?」
「うん。食べる?」
「頂きます」
「はい」
「…」
「食べないの?どうかした?ぶよぶよになってた?」
「…冷凍みかん…」
「え?」
「やはり雪山に行きましょう高屋敷君。先生冷凍みかんが作りたくて堪らなくなってきました
☆」
「ええー!?冷凍庫があるでしょ冷凍庫が!現代人なんだから文明の利器を…うわああ寝袋に
詰めるな出ーせーーー…!……!!」
―――――――――――――――
「…ということで、目出度く遭難した訳ですが」
「なにが目出度くだぁ!!こんな時期に素人が山行ったら危ないに決まってんでしょばかー!
!」
「黙りなさいこの馬鹿、あまり騒ぐと埋めますよ?みかんのように」
「…」
「良い子ですね」
「ひぐ…ひっく、もー僕ヤダ…食料だってみかんしかないじゃん、凍ってるし、ひっぐ…どう
するのさー」
「え、もう凍ってました?」
「凍ってるよぅ!あっという間だよ、釘打てるよ!」
「どれ…おや本当ですね。では、もう目的は達したということで、帰りますか」
「え?」
「何座ってんです、さっさと立たなきゃ置き去りにしますよ?」
「か、帰るって…帰るって、帰れるの?」
「君がここに居たいなら置いて帰りますけど」
「置いてかないでよ!帰るよ!でも帰れるの?遭難したのに?道わかるの?」
「いや、分かりませんけれど?」
「じゃあどうやって帰るんだよ!?」
「あー…高屋敷君、君は山の神のことを知っていますか?」
「へ?山の神様?」
「はい、今私達が遭難しているのは、山に入ったことを神に怒られているからなのです」
「だからじゃあなんで入ったの…」
「つまり、神の機嫌をとれば無事山を降りることが出来るはずですよ」
「でも機嫌とるなんてそんな…どうやればいいの?」
「良い考えが私にありますので大丈夫です。因みに高屋敷君、山の神はどんな姿をしていると
思います?」
「え?…おっきい、とか…?」
「まあそれはそれで合っていますがね、もっと重要な特徴があります。それは一つ目だという
こと」
「一つ目?」
「ええ、ですから昔から、その神に倣うことで怒りを解いていたのです」
「…え、ちょっと待って。倣うってまさか…!」
「その通り、片目を潰すのですよ」
「ややややだやだやだ!!絶対いやぁ!!」
「そうしなければ帰られませんよ?それとも君を置いて私だけ帰りましょうか」
「なんでさっきから置いていこうとするのー?!いやあおいてっちゃいやですー!!」
「じゃあ、一つ目になりますね?」
「う、うう…ホントにそれしかないんなら…」
「残念ながらねえ。…ところで、私達は何人でしょう?」
「ふえ?…二人に決まってるじゃない」
「そう、二人です。二人ということは、目玉の数は幾つでしょう?」
「四つ」
「ええ、四つですね」
「片目にならなきゃいけないから、これから二つになるけどね…でもそれがどうしたの?」
「ふふっ…高屋敷君、それは少し違いますねえ」
「?」
「良いですか、重要なのは、四つの目玉を二つに減らすということです」
「だから僕もそう言ってるじゃない!」
「いいえ、違います。つまりですね…必ずしも二人が片目になる必要は無いという事なんです
よ」
「……え?」
「四つの目玉を二つの目玉に…君の二つの目玉を抉り出して…」
「ひ…い、あ、…い、いいいいいいイイイイィィィィィィィ゛ィ゛ィ゛イ゛イ゛イ゛
イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!」
―――――――――――――――
「…いやー無事に帰ることが出来て良かったですねえ高屋敷君?」
「…」
「これも君が犠牲を払ってくれたからですよ」
「なんで僕だけが」
「私が嫌だったからです」
「…」
「あ、目玉の代わりにこのみかんでも入れておきましょうか?」
「お前の脳ミソをみかんにしてやろうかー!!」