もう走ることが出来なくて
僕は青いポリバケツの横に座り込む
ここがどこだかわからない
パトカーのサイレンは煩いのにとても遠くて
助けはどこにも見当たらない
足音が聞こえる
誰のものかは分からない
でもなんの根拠が無くてもいいのなら
僕はその主を当てられる
殺さないで安西先生
「…見ー付けた、高屋敷君」
「いや、いやぁ…」
(コツ コツ コツ )
「袋小路に来てしまうなんてね。君は本当に、もう…」
「助けて、助けて、殺さないでぇ…」
(コツ、コツ、コツ……コツン)
「もう遅いですよ…ほうら、捕まえた…」
「ひ!!いやあ!いやああーーー!!放して!放せ…!!」
「つっ!…痛いですねえ高屋敷君?噛み癖がまだ残っているのですか?」
「放せ、バカ、死ね、死んじゃえ…!痛い…!」
「暴れても遅いですよ、片腕一本で君は閉じ込められるから、ね」
「いやだよぉ、どうして?なんで僕?痛い、放して、死にたくない…」
「誰でも良いのです、だから、早く帰れと言ったのに」
「…?」
「毎晩一人、家を出て初めに見付けた人間を…」
「!?じゃ、じゃあ、通り魔って…」
「ええ、私ですよ。仕方が無いのです、これは月に捧げる生贄の儀式ですから、例え君とて見
逃す訳にはいかないのですよ」
「なに言ってるの?なに言ってるの?お願いやめて、どうしちゃったの?」
「ごめんなさいね高屋敷君…大丈夫ですよ、君は特別に、優しくしてあげますから…」
「や…いや、やめて…ウソだ、いや、いや、やめて、それいやぁ…!」
「怖くない…怖くない…さあ高屋敷君、目を閉じて…」
「助けて…殺さないで…安西先、せ………いやああアアァァァァァァァァァァァーー
ーーー!!!?!」
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「氷室さーん、こんばんはー」
【…ああ来たか聡美。遅かったな】
「はい、高屋敷君を家まで送ったもので。途中で気ぜ…いや、眠ってしまったので、おぶって
行ったら遅くなってしまいました。寝たままパジャマに着替えさせたりしましたし、ちょっと
手間取りましたかねえ」
【ふん?それにしても遅いな】
「そうですか?遊びながら送っていたせいでしょうか…」
【まあ良い、夕食の準備が出来ている。学会の話は食べてからだな】
「奥様の手料理ですか?久しぶりで嬉しいです、美味しくて小さい頃からよくご馳走になって
いました」
【ああ、あいつに言ってやれ……おい聡美が来たぞ】
「お邪魔します小母様、ご飯をご馳走になりに来ちゃいましたよ」
【おいおい、仕事の話はどうしたのだ?】
「後で良いじゃありませんか。動いたのでお腹がペコペコなんですもの」
【やれやれ…ほら手をあ洗ってこい】
「ふふっ…はい、氷室さん」