「高屋敷君、可愛い猫を飼い始めたのですが見て下さい」
「猫?へー可愛いおぐふぅっ!?なんじゃこれ!!?
「ああ、最初に説明すべきでしたね。見ての通り双頭の猫さんですよ。暫く前に知り合いに双頭奇形で生まれた猫を譲って貰いましてね。その猫が運良く子孫を残せる奇形だった物ですから、何度も交配させて、その血筋から生まれた子が皆双頭になるようにしたのです。いやあ大変でしたが頑張った甲斐があるだけの可愛い子が沢山出来ましたよ」
「…人間のエゴが怖い…」
「因みにこの子達は右の子が左半身、左の子が右半身をそれぞれ動かせるみたいなんですが、二匹とも各自好き勝手な方向へ動こうとするから、結局何処にも行けずにコロコロ転がっているだけなんです。おばかさんで可愛いですね」
「今この場で安西先生を撲殺しても僕はそれを正義だと大きな声で言える自信がある。つーか動物愛護協会に表彰されると思う」
「…?…あ、やきもちですか高屋敷君」
「違うよ。なにその都合のいい解釈は」
「ふふふ、高屋敷君たら嫉妬しいですねえ。大丈夫、君も可愛くしてあげますとも」
「いらない!!余計なことしないでくださうわあああ放せどこ連れてくんだ放せえええぇぇぇ!!!


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「…ふむ、どれにしますかねえ…君のクローンは常時何個か冷凍ストックがあるのですが、割と精神にバラつきがあるのですよ」
「この手錠を外せー!!」
「作ったら纏めて洗脳装置に放り込んで情操教育を一括処理でぶち込んでるんですが、偶に失敗しておかしくなっちゃう子もいるのです。確かこのγ-56君なんかは涎を垂らして笑っているだけの完全な廃人だった筈です」
「人権団体にタレ込んでやる!あとローマ法王にも言いつけてやる!!」
「人権団体?君は本当に世の中を知らないのですね。それと、神に祈るなら今の内に済ましておいた方が良いですよ、この後君は神に愛されない化け物になるのですから」
「なるっつーかならされるんだよ!?センセのせいだよ?!」
「『頭の二つある生き物がそだたないように・・・・・・とびぬけた頭脳の子は腹からでるとまもなく死んだものだ だが 悪魔くんは 神が殺しそこねたのだ』なんちゃって、ね。あはは、君が神に殺されないように、この馬鹿な子の頭を付けてあげましょう。ちょっと待っていて下さいな、今γ-56君を解凍してきますから」
「神に殺されるべきなのはアンタじゃねえかこのアホー!!」
「神は死んだとニーチェが言いましたが、ニーチェは死んだと神は言いました。さてそんな事より良い子で待っていなさいな高屋敷君?さも無きゃ君の頭を引っこ抜いてζ-8君を括りつけたって良いのですからねえ〜」
「うわあんどう足掻こうと地獄だようー!!」
「君の地獄が私の天国。さて縫い針はどこにいきましたっけねえ〜」


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「「…」」
「ふむ…ちょっとぐらぐらしちゃってますけど、まあこんなものですかね」
「「死んでも許さないからね、安西先生…」」
「おや?君が話すともう片方も話すのですねえ。ということは…」
「「僕に全部の優先権があるみたいだね。というわけで残念ながらさっきのネコみたいには転がったりしないよ」」
「それはそれは…残念です」
「「ああホントに残念そうだね!縊り殺してやりたい!!」」
「いけませんよ高屋敷君。γ-56君を縊り殺したりしたら、そこから腐って、君も生きながら腐り果てることになりますよ」
「「アンタのことだよ」」
「あはは」
「「まともな神経してたら笑えないと思うんだけどなあ〜」」
「どうしてですか?とても似合っていると思いますよ。君は可愛い顔ですし、そんな可愛い顔が一つの体に二つ付いているのですから、とってもお得じゃありませんか」
「「一個の卵に二つ黄身が入ってたのとは全然違うって解ってる?」」
「さあ、よく解りませんね」
「「ひどい…こんな身体にされて僕はどうやって生きていけばいいのさ?」」
「んー…ああそうです、私が見世物小屋でも立ち上げてあげましょう」
「「へ?」」
「ふむ、平成生まれの君には解りませんか…簡単に言えば、身体障害者が訪れる客に蔑まれたり驚かれたりああ生まれつかなくて良かったと安堵させたりする、少々非人道的なサーカスですね」
「「どこが少々だよふざけんな!人権は?!」」
「何を言っているのですか高屋敷君、障害者にも職が有るというあの時代は有る意味で平和だったのですよ。ああ、先生何だか楽しくなってきちゃいました。早速他のクローン達を使って奇形の君を沢山作ってこなければ!」
「「ま…待てこのマッドサイエンティストー!!僕の遺伝子をこれ以上不幸な目にあわせるなぁー!!」」




無限にある僕のクローンは

殆どがバラバラに切り刻まれて

色々な化け物に作り直された

僕たちは安西先生の管理する見世物小屋で

嫌味なくらい清潔な檻の中で

毎日沢山の人に眺められるようになった

見詰める眼はどれも僕らをイライラさせて

夜毎声を掛けにやってくる安西先生に不満をぶつける

でも先生はにこにこしながら

どこかしら僕らの一部を撫でて

あんまりな言葉を繰り返す



「高屋敷君、君達はね、その醜い身体で色んな人の心を落ち着かせる、カタルシスの天使さんなのですよ」

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