「…高屋敷君」
「…なに」
「ここ一週間程機嫌が悪いですね?」
「別に!」
「悪いじゃありませんか。どうしたのです?生活費を落としたのですか」
「違うもん。…安西先生には関係ないでしょ」
「関係ないだなんてそんな水臭い、長い付き合いですもの、君に悩みがあるなら何とかしてあげますよ?可愛い生徒なのですから」
「ウソ吐き」
「はい?」
「ウソ吐きウソ吐き!可愛いなんて思ってないくせに!バーカ!先生なんか大っ嫌い!!」
「…え、もしかして君の機嫌が悪いのは私のせいですか?」
「知らない!」
「そうなんですね…ちょっと待って下さい、えー……いや、ぶん殴るのは日常的にやっていますし、今更違いますよねぇ…」
「バーカ!バーカ!やっぱり忘れてるんだ?!どうせ僕なんて記念日の一つも覚えてもらえないんだー!!」
「記念日?…………!!」
うわぁーーん!!
「しまっ…!た、高屋敷君、誕生日…今月の十二日…でした、ね…」
「別に!別にいいもん!どうせろくなプレゼントくれないし?!おめでとうなんて言われなくっても年とるしー!!」
「うーん、誕生日を楽しみにしていた子供を心無い大人が傷付けてしまいましたね…効して大人が子供に年を取らせていくのでしょうか。人非人としての名が廃りますけど、少々心苦しいですねえ」
「もっと心苦しくなれー!!」
「ああ、ああ、すみません高屋敷君…今回ばかりは完全に私が一方的に悪かったですね。今からでも良ければお祝いしましょう?何でも君の欲しいものを買ってあげますし、ケーキも特別大きなものを…」
「いらないいらない!!嬉しくない!」
「困りましたね…現段階でお詫びをして許される余地はありますか?」
「ないー!」
「ふむ、つまり、十一月十二日の君を祝わないと許してくれないのですね?」
「そーだよ!…でもそんなのムリだから安西先生は一生許されません!ってゆーか許さないー!!
「あー……、つかぬ事を聞きますが、高屋敷君は十二日に気を失った覚えはありますか?」
「?…あるけど…一時間くらい。雪で滑って転んだ時。…あれも安西先生が常日頃から気絶させるから!大した衝撃じゃなくても気絶するようになって僕
「一時間?そうですか、それは好都合です。一時間あれば十分ですね」
「?」
「高屋敷君、ちょっとこっちおいでなさい」
「なにー?」
「君は魂だけ連れて行きます」
「…?なに言ってん(ボゴキィッッ!!あべげっ!?!…ゴドン)」
「……」
「…」
「高屋敷君?」
(「なんだよ!!?」)
「あ、居ましたね。成功したようで」
(「なにが?!」)
「幽体離脱に」
(「え?!あ、ホントだ!僕が倒れている!首が変な方向に捻じ曲がって倒れている!うわあ死んだぁー!!」)
「大丈夫ですよ、後で戻してあげますから。そんな事より早く行きましょう?」
(「行く?どこに行くの?天国?」)
「違いますよ。先生、本当は無限ループって好きじゃないのですけれど、高屋敷君の機嫌の為に時空移動しちゃいます」
(「じくう…?」)
「んー、まあ行けば解ります。と言う訳で半透明の高屋敷君、私が合図したら軽くジャンプして下さいね」
(「ふえ?それって…」)
「いきますよ…ワープ!」


―――――――――――――――


(「あうっ!」)
「よっ…と。はい到着…おや大丈夫ですか?立てます?」
(「…」)
「高屋敷君?」
(「…就職指導室の前だ…」)
「そうですよ」
(「さっきまで中だったのに?」)
「ワープですからねえ」
(「すごい…安西先生すごいね…きっと人間じゃないんだね」)
「人間ですったら。ああ、因みに時間も移動していますから、ここは十一月十二日の就職指導室前ですよ」
(「そうなの?!すごい!!」)
「しー、ですよ高屋敷君…この中には十二日の私達が居るのですから」
(「そ、そっか。………ホントに?」)
「おや疑うのですか?ならこっそり覗いてみましょう。そーっとドアを開けて御覧なさい?ほんのちょっとだけね」
(「うん!」)
「…」
(「…」)
「どうですか?」
(「…いる」)
「どれどれ…ああ、本当ですね。そういえばこの日は珍しく仕事が詰まっていて掛かりきりでしたね」
(「そうだよ、だから僕誕生日だって自分でも言い出せなくて…むぐっ!?」)
「隠れますよ高屋敷君」



(「あ…僕だ。走ってっちゃった」)
「ふむ、言い出せなくてああやってこっそり私に気付かれないよう帰ったのですね?しかし、気付いたら居なくてびっくりしたのですよあの日の私も」
(「知らない!」)
「まあまあ怒らずに。…さて、気付かれないように追いかけましょう」
(「うん」)
「……ああ、悲しそうな顔で帰っていきますね…寂しそうですね、本当に可愛いですねぇ…」
(「…」)
「何故睨むのです?私がドSなのは君もよく知っているでしょうに」
(「変態」)
「ありがとう御座います。餌を貰えなかった兎さん」
(「自分がくれなかったのにー!!」)
「あ」
(「え?」)
「転びましたね」
(「ホントだ。…このせいですっごいおっきいたんこぶできたんだよ!もう引っ込んだけど…わ、なになに?!なんで持ち上げるの!?」)
「はいはい暴れないで下さいねー。今から二十日の高屋敷君の魂を十二日の高屋敷君の体に押し込めますから」
(「えー!?!ってうがが苦し!痛いいたいいたぁー!!」)
「ふむ、もう一押しってとこですね」
「いったいって!!やめろー!!」
「ああ、入りましたね」
「へ?あホントだ…違和感無いー」
「自分の体ですしね。さて」
「う?」
「これで君は十二日の高屋敷君です。なので、これからお誕生日ケーキとプレゼントをあげようと思います」
「……あ!!そうかそういうことだったんだ?!」
「そうですよ、長い道のりでしたね。さあケーキとプレゼントを買いに行きましょう」
「うん!わーい誕生日だぁー!!」



―――――――――――――――



「…高屋敷君、ぬいぐるみで良かったのですか?」
「えーいいに決まってるじゃん!僕自分くらいおっきいクマさん欲しかったのー。一人暮らし寂しいんだもん!えへへ、名前なんにしよっかなー♪」
「君は今日で幾つになるのでしたっけ?」
「19才だよ」
「へえ、19才ですか。まあ、良いのですけれどね」
「ケーキも超おいしかったー!誕生日楽しかったー…ありがと安西先生!!」
「いえいえ、二十日まで忘れていたお詫びも篭めてですからね。…しかしそろそろ一時間経ちますから、二十日に帰らなければなりません」
「そっか…クマさんも持って帰れる?」
「ええ、帰れますよ。…君が転んだのはここでしたっけ?」
「うん、転んだ跡あるもん」
「今度からは気を付けて下さいね、車も通る道なのですから…えー、と、何処に仕舞いましたっけね…」
「なにを?」
「ん?十二日の君の魂を」
「抜けてたの?!」
「そうじゃなきゃ二十日の君が入れないでしょう?…あ、ありましたね」
「え、携帯灰皿に入れてたの?!入るの!?先生タバコ吸わないのに?!」
「携帯ゴミ箱にしてるのですよ」
「ゴミ扱い!?」
「ちゃんと空にしてから入れましたってば。それより早くそこに寝て下さいな、一時間経ってしまいます」
「はわ!えっとえっと、こう?」
「はい良いですよ、じゃあ魂抜きますね」
「え(ドゴキャッ!!なばろっ!?!
「…ん、抜けましたね。あとはこっちの魂を押し込んでと…」
(「蹴ったー蹴ったー!安西先生が人の頭をサッカーボールみたいに蹴ったー!!あの日起きた時に頭がズキズキしてたのは転んだだけじゃなくて蹴られたせいもあったんだー!!」)
「はいはいごめんなさいごめんなさい。良いからとっとと逃げますよ、もう起きてしまいそうです」
(「う?じゃあ…」)
「行きと同じ様にね…ワープ!」


―――――――――――――――


「…うー」
「おや、丁度二十日の体に戻れたのですね。押し込める手間が掛からなくて済みました」
「首が、首がー…」
「立てますか?はい、手」
「うー」
「よしよし。…で?私は許してもらえるのですかねえ」
「んー…痛かったけどいいよ。クマさん貰ったし!ケーキおいしかったし!十二日だったし!」
「それは良かった」
「わーいクマさん!早く帰ってお洋服作ったげよーっと」
「送りますよ、もう遅いですし」
「うん。えへーありがとセンセ、僕楽しかった!十二日のお誕生日楽しかった!」
「どういたしまして」
「…でも十二日から十九日までの僕が可哀想!」
「あー、大丈夫ですよ、その高屋敷君も二十日になればお祝いして貰えますから」
「そっか…」
「そう、十二日から十九日まで誕生日を忘れられていて可哀想な高屋敷君も二十日にはぶん殴られて気絶して十二日に行ってから蹴り飛ばされて二十日に戻ってくるから、大丈夫ですよ」
「あれ?!やっぱり可哀想じゃない!?」
「車出してきますから、そこで待っていて下さいね」
「聞いてる?!安西先生聞いてる?!待ってよねー僕可哀想じゃないーーーー!!?」
「あはは、19歳の誕生日おめでとう御座いましたよー高屋敷くーん」

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