急に安西先生から電話が掛かってきて

「今から言う住所のプールに来なさい」って言われて

夏も終わったのにめんどくさいなもう


「センセ来たよー!なんの用…?」
「いらっしゃい高屋敷君。わざわざ御苦労様」
「なに、それ」
「はい?」
「足、どこいったの?」
「ああ…魚にしましたよ。そのせいで歩けなくなったので君を呼び付けたという訳です」
「人魚じゃん!!親から貰った身体なんだとおもってんのさー!」
「気に入りませんでしたか」
「気に入る入らないじゃなくて…なにしてんの?目的はなに?」
「別にありません。強いて言うなら君を驚かせたくて」
「やめて」
「もうやってしまいました」
「じゃあ戻して」
「無理です」
「無理じゃないでしょ!?もうすぐセンセも講義始まるのにどうやってその格好で講義するの?!」
「風呂桶並みの水槽を用意しませんとね」
「…はあ…なに考えてんだろこの人」
「似合いませんでした?」
「似合ってはいると思うけどね、その化け物じみた美貌には」
「それはありがとう御座います」
「うん、誉めてはいないけどさ」
「けれど、泳ぎがとても速くなったのですよ。それに水中でも息が苦しくありませんし、なかなか気に入りました」
「それはなによりですー…ところで、先生は淡水魚なの?」
「ん?ああ…えい(バシャン)」
「ぶあっ!?な、なにすんのさ…あ、しょっぱい」
「海水を運んできて貰ったのですよ。もう少ししたら海草も入れさせますし」
「あーホントに人魚姫サマですねー。…どんだけ手間かけさせんだろねこの人はー」
「ふふ、高屋敷君もなりますか?人魚に」
「いい。前に一回なってるし、いい思い出もないし」
「それは残念」
「人魚で思い出したんだけどー、人魚のミイラって昔あったよね?」
「ああ、何処かのお寺にあるみたいですね。サルと魚をくっ付けたミイラだそうですが、その割には加工の跡が無いとか何とか」
「僕ね、あれ見た時夢が壊れまくったよ。だって人魚姫様ってあんな怖い顔だったなんてショック!」
「うーん…西洋と東洋の人魚には絶望的な観念の壁がありますからねえ。とは言え西洋の人魚というものも、アンデルセンが人魚姫という童話を書くまではおぞましい海の怪物と思われていたのですよ」
「そうなの?」
「ええ。可憐な姫とは割合最近付加されたイメージですね」
「ふうん…でも先生は綺麗だね。鱗とかピカピカだし」
「それはありがとう御座います」
「あと人魚っていったら…なんか凄く重要な特徴なかったっけ?あったような気がするんだけど…」
「ん?…ああ、きっとこれでしょう」
「なあに」
「人魚の肉を食べると、不老不死になる」
「…あ…」
「…ねえ高屋敷君…私を食べてみたくありませんか?」
「え?」
「とっても美味しいですよ…甘くて、噛むとほどけるように柔らかくて、良ーい匂いがして…世界中何処を探したって、こんなに美味しいお肉はありませんよ…?」
「…でも、僕は別に…」
「食べたくない?」
「…わかんない」
「ふふ、高屋敷君はいつもそうやって誤魔化すのですものねえ」
「……」
「さあいらっしゃい高屋敷君、遠慮なんかしないで…私を食べて下さいな」



安西先生は魚の半身をひらひら泳がせて

人の半身をいやらしくくねらせて

匂い立つ歌のような声で僕を誘う

その水晶に似た煌めく鱗と

白くて弾力のありそうな肌に

僕は猛烈な食欲を感じて

僕の抵抗する理性は歌い囁かれる声に掻き消されて

僕は惑わされ近付いて


僕は、僕は、僕は、僕は…




ガブリ











「…ふふ、高屋敷君たら本当に素直な子です…こんなに簡単に騙されるなんて、張り合いがありませんねえ」



ボキ!ゴリゴリガリ…ゴキュン、ベキ、ベキベキベギ!…ぐちゅ…バリバリゴリゴリゴリ……ピチャピチャぺチャ…ゴキン!!

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