…ギシッ……ギッ…ギキィ………ギシッ…


「…高屋敷君、大丈夫ですか?手を繋いであげられませんけれど、恐くありませんか?」
(恐いよー!!もうイヤ帰るー!なんでこんな暗いのー?!)
「窓にも蔦が絡んで覆ってますからねえ」
(帰るー!!)
「まあまあ、もうすぐそこですから我慢して下さいな。ほらそこの突き当たりの部屋ですよ」
(ここ?凄い豪華なドアだね)
「ええ、この館の主人の部屋だったようです」


ギギ…ギキキイィーー…………バタン!!


(えっと…あそこの壁?漆喰が新しいけど)
「はい。ツルハシが立て掛けてある壁です」
(…)
「ちょっと待ってなさいな、今壁を崩しますから危ないので下がって…いや、今の君には無意味でしたか」
(実体ないからね)
「まあ気分的に避けていなさい」



ヒュッ…ガツ!!…ゴッ、ヒュッ…ガズ!!…ガリ、ヒュッ…ゴガッ!!…ガッ、ヒュッ…ガゴン!!


ガラガラゴドン!!!
………


……ズル…


……


…ズッ…


………


………………ドグシャッ



(……うっ)
「ああありましたありました。だいぶ腐ってますけれど、骨にはなってませんでしたね」
(………)
「腐ってますねえ……やはり、生き返りそうにない。何が悪かったのでしょう?いつもと変わらない殺し方だったと思いますが」
(…………した)
「ねえ高屋敷君、どうしてでしょうね、高屋敷君?…高屋敷君?」
(…思い出した)
「いきなり何をです?」
(痛かったの…凄く痛かった…やめてって言ったのに、痛かったの…)
「高屋敷君?」
(なにで殴られたんだったかなぁ?凄く重くって、冷たかった…沢山殴られて、僕凄く痛かった)
「…」
(背中をね、いっぱい殴ったよね?力一杯、何度も何度も、僕が痛かったのに、痣が裂けるまで、殴ったよね?痛かったな…)
「それで?」
(ひどいよね、僕は痛かったのに…髪を掴んで床に叩きつけたでしょ?僕思い出したよ、痛かったこと。一回で額割れちゃったもん、血が一杯出てね、目に入って…でも、安西先生が笑ってるのは見えてたんだよ?痛かったけどよく見えてた。でもやっぱり、痛かったな…)
「そうでしたっけね」
(忘れちゃったの?僕は痛かったのに……でも、これは覚えてるよね?僕が死にそうで、助けてって言った時、先生ったら僕の首を絞めたでしょ?その時にね、僕、苦しくって、痛くって、死にたくなくって、抵抗したよね?)
「…」
(それでね、ほら……ここだよね?安西先生の、手、引っ掻いたんだよね?)
「…」
(これは先生も覚えてるよね?…だって、痛かったもんね?僕、痛かったこと、凄く覚えてるもの…先生も、僕を殺したことは忘れても、痛かったことは覚えてるよね?思い出して、くれたよねえ?!)
「…さあ?」
(…)
「忘れてしまいました、そんなこと。これが君の爪痕?そうでしたっけねぇ。忘れてしまいました」
(…ひどい)
「ええ、私はひどい人ですよ。そうでなければ、君を殺したりしませんよ」
(許さない…許さない…どうして?どうして僕を殺したの?どうして僕を殺したことを忘れたふりするの?)
「別に。過ぎた事ですもの、覚えていたってしょうがありません。…ああ、でも安心して下さいね?君を殺した時にとても楽しかったことだけは、決して忘れたりしませんよ」
(…そう)
「ええ…」
(それってずるいんじゃない?僕は痛くてイヤだったのに、安西先生は楽しかっただなんて、ずるいよね)
「ふむ、ではどうするつもりですか?」
(僕も楽しいことしたい。安西先生と、安西先生で、遊びたい)
「私で?」
(出してあげない。安西先生はずっとここにいなくちゃいけないよ、僕と一緒に遊ばなくちゃいけないよ)「馬鹿なことを、君がどう私をここから出さないと?触れることも出来ないというのに……ん?」
(…)
「今の音は…?」
(…鍵)
「は?」
(鍵を掛けたの。もう開かない。ずっとこのまま、もう開かないよ)
「鍵を?どうして君が?」
(なんでかな?センセが壁に塗り籠めたせいかな?僕、この屋敷のことはみんなわかるよ。だから、鍵も掛けられるよ)
「…ちっ」
(安西先生?どこに行くの?…ああそっか、おいかけっこで遊ぶんだ。言ってくれなきゃずるいじゃない)
「馬鹿馬鹿しい。高が高屋敷君ごときが私を閉じ込める?冗談は嫌いですよ」
(待ってよ先生、一緒に遊ぼう。ねえ、先生?)
「馬鹿馬鹿しい、馬鹿馬鹿しい…窓はどこです?」
(センセったら、走るの早いんだもん)
「窓は…窓は?」
(でもダメだよ。どこにも行けないんだから。この屋敷から出られないんだから。逃げられないんだよ)
「窓が無い…どうしてです?全部…鏡?どうしてです?」
(安西先生ったらこっち向いてくれないの?でも、いいか。鏡には写ってるでしょ?先生の後ろにいる僕が…)
「うるさいですね、どうして着いて来るんです!」
(言ったじゃない、僕と遊ばなくちゃいけないんだよ。だから一緒に遊ぼうよ)
「くっ……そうです、鍵を探せば良い。扉を開ける鍵を…」
(ふーん、次は宝探しするの?いいよ、頑張ってね)
「鍵は…引き出しの中に…」
(でも安西先生に分かるかなあ?とっても難しいところに隠してあるんだよ?)
「黙りなさい!鍵は…鍵はどこに…」
(ほらほら、散らかしちゃダメじゃない。そんなとこにはないよ?)
「ベッドサイド?客間の絨毯の下?大理石像の首に?廊下の大鏡の裏?階段の踊り場?ピアノの鍵盤の上?」
(どこかなあ?)
「応接間のソファーの隙間?シャンデリアのスワロフスキーに紛れて?香水瓶の中?廊下の肖像画の裏?浴室の石けん箱の裏?キッチンの鍋の底?猫の餌箱の中?」
(見つからないね。やっぱりダメかなあ)
「無い…鍵は…鍵は…鍵は…」
(仕方ないかな。教えたげるよ。鍵はねえ……子供部屋の、枕の下っ!)
「…」
(ほらほら、早く行かなきゃ。それとも、また別の所に隠されたい?)
「…ちっ…」
(そうそうそこだよ。ほらね、あったでしょ?)
「あった。………?」
(…くすくす)
「これは…馬鹿にして…」
(あはは!あははー!)

「玩具の鍵?ふざけるんじゃありません!」
(だーまされた、だまされたー♪言ったじゃない、ここから出さないよって)
「鍵はどこです!出しなさい!!」
(鍵ー?そんなもんないよ?)
「…何を…?」
(そんなものどこにもないよ。ウソだったんだもん)
「………!!」
(あは、怒らないでよセンセったら。そうだ、鍵ならあるよ。ガラクタ入れに沢山入ってたはずだし、探してみれば?どれも錆びてるし、どれもこの屋敷の鍵じゃないけどね)
「ふざけるんじゃありませんよ!」
(怒らないでよ、もしかしたらその中の一本は当たりかもよ?)
「…」
(でもどうかなあ?さっきは僕ウソ吐いたよね?もしかしたら、これもウソかな?)
「…馬鹿馬鹿しい」
(馬鹿馬鹿しいね。でも、どうしようね?鍵を探して、一本一本磨いてみる?一本一本鍵穴に刺してみる?それでも開くかどうかわからないけど!)
「ここから出しなさい高屋敷君!いい加減にしないと…」
(しないと?しないとどうするの?殺すの?もう殺したのに?)
「……く」
(出さないよ。安西先生はずっとここにいるの。ずっとずっとここにいて、死ぬまで僕と遊ぶんだ。死んでからも、ずっとずっとここにいて一緒に遊ぼうね、安西先生?…あは、あはははははははは!!きゃははははははははははははははははははははははははははははははは!!!







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「…さてさて、高屋敷君は今頃この屋敷の中で、私の幻影相手に遊んでいる頃ですかねぇ?

騙してすみません、高屋敷君。でも先生、君に付き合っていられる程暇じゃないのです

幻影だけは消さずにおいてあげますから、そこに閉じ籠めていても退屈しませんよね、高屋敷君?」


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