「高屋敷君、私に殴られて気絶するのと自分で気絶するのならどちらが良いですか?」
「自分で気絶するの」
「じゃあ、お願いしますね」


―――――――――――――――


「おはようございます安西先生」
「おはよう御座います高屋敷君」
「で、なんで気絶しなくちゃいけなかったの?」
「ちょっとした遊びの為ですよ」
「ふーん…昨日不思議の国のアリス読んだんだ?」
「よく分かりましたね」
「分かるわ!!アリスっぽい女装させられててセンセはシルクハットでお茶飲んでりゃイヤでも分かるわ!読んだからコスプレとはまた単純ですこと!!」
「あはは。まあまあ、それよりお茶でも如何です?」
「いんないよ!」
「そう言わずに…ほら、三月兎高屋敷君と眠り鼠高屋敷君もお茶を勧めてくれていますよ」
「またクローンを!?いい加減人の遺伝子弄ぶな!耳を四つにするなー!!」
「あーあーうるさい子ですねえ、ちょっと静かにして下さい。ほら、三月兎高屋敷君が驚いてバターナイフを落としちゃいました」
「僕悪くないのに…」
「よしよし、泣かなくて良いですよ三月兎高屋敷君。こっちにいらっしゃい」
「あー疲れちゃった。もうやだやだ、このイス座るからね」
「やれやれ、君がちっとも役に徹してくれないのですもの…これではキ印お茶会じゃなくて単なるお茶会ですよ」
「なんで僕が安西先生の暇潰しに付き合わなくちゃいけないのさ。いいからお茶ちょうだい」
「ああ、ちょっと待って下さいね。眠り鼠高屋敷君、こっちへ来なさい、そう、ティーポットを持って…三月兎高屋敷君、バターナイフを貸してくれますか」
「?…なにしてるの、ちょっと…なんでバターナイフ鼠の僕の首にあてるの…そのティーポットを首に添えるのはなんの意味がうわああかっ切りやがったー!?!
「入れたて熱々ですよ、アリスな高屋敷君。そのカップは汚れていますから、こっちにしましょうね。三月兎高屋敷君もおかわりしますか?」
「やっぱアンタがいる時点でキ印お茶会だよ!!イカれ帽子屋っつーかシリアルキラー!!」
「あ、アリス高屋敷君砂糖は幾つ?」
「聞けよ!」
「三月兎高屋敷君と同じで良いですね。はいどうぞ二人とも」
「飲まねーよこんなおぞましいもの…おげええ兎の僕ゴクゴク飲んでるよ!?やめさせてよ!」
「私は砂糖無しが良いのでこっちにしましょう」
「鼠の僕の首から直に飲むな!!」
「血生臭くて美味しいです」
「狂ってる…それを許容してるウサギの僕も狂ってる…」
「薫り高く芳しく、君も一杯如何です?お茶菓子に鼠の君の指を何本か如何です?」
「何度も言うけどいらないよ」
「鼠の君は嫌でしたか?ならばウサギの君を潰しましょう」
「やめてよ!もう沢山」
「どうして?これは君が望んでいることなのに?」
「…なんの話?」
「君が、ウサギの君を要らないと思っているから、だからこの子は死ぬのです。嫌いでしょう?ウサギの君が」
「違う…嫌だけど、死んでほしいなんて…」
「でも、いない方が良いですよね?いくら私がイカレ帽子屋でも、この子をシルクハットに入れて消してしまうことは出来ません。パッと消せないなら、殺して消すしかないでしょう」
「やめて、そんなこと…!」
「駄目、駄目。駄目ですよ。高屋敷君、君の心に嘘を吐くのはいけません。だってこの世界は君の為の世界なんですから」
「…え?」
「君の為に作られ、君の為に壊される、正しく君の世界です。ドジスンがアリスの為に創造した不思議の国のように、私が君の為に創造した不思議の国ですよ」
「いらないよ!こんな世界のどこが僕の世界なの?!」
「いいえ、君の世界です。ほら、君の為にウサギの君を殺しましょう(ぐちゃ!)」
「ひっ!」
「おや、どうしてそんな顔を?君が嫌だと言ったから消したのに」
「やめて…いや…!」
「逃げるのですか?それも良いでしょう。それが君の望むことなら、この世界は何も拒まない。君の為にこの世界はあるの

ですからねえ」


「いや、いやあああああーーー!!」


「あっはは!逃げるのですね。良いでしょう、逃げなさい、蔓薔薇の小道を駈けなさい。君の足には絡まないでしょう、君が絡まないことを望むなら。逃げたいだけ、駈けたいだけ進みなさい。辿り着いた先は、正しく君が行き着きたいと望んだ場所ですよ!」


走って

走って走って

走って走って走って

足を止めるとそこには

手足をもがれてアヘンを吸う僕がいた

濁った瞳で這いずってくるから蹴り飛ばした

また逃げて走って

息切れで足を止めるとそこには

高い塀から落ちてぐちゃぐちゃになった僕

悲鳴を上げてあとずさると

無かった筈のお城に踏み入った

中には奴隷の僕が沢山いた

訳が解らなくて気が狂いかけて

僕はお城の階段を駆け上がる

広間の玉座にはクイーンの僕が座っていて

にっこり笑いながらこう言った

あの者の首を刎ねておしまい!


「仰せの通りに、高屋敷君」
「違う、こんなの、嘘だよ、嫌だ…」
「いいえ、ここは君の為の世界。今までも、今も、これから起きることも、君が望んだことですよ」





(…ジャキン!

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