「高屋敷君?高屋敷くーん?そろそろ起きて下さいな?」
「う…うう…?」
「はい立って立って、浴衣が汚れてしまったじゃありませんか」
「あれ、なんで生きてるんだろ僕…」
「拾い集めてあげたのですよ。全く、アセチレンランプにへばり付いて剥がれない肉片も多いしで大変でしたよ」
「僕なにも悪くないのに…」
「次は何処に行きましょうか?」
「え?んとね、輪投げに行きたい」
「輪投げというと…あの首吊りの輪みたいなあれですか?」
「あ、やっぱ止める!カタヌキ!カタヌキを!!」
「ああ、あの凶器がそこらに転がされてる…」
「去年の悪夢が脳裏を!!あっあっえーとっ!そうだかき氷食べたいな僕!!」
「先生カキ氷のシロップはブルーハワイよりもメロンよりも生き血が好きです」
「なに言っても無駄な気がしてきたどうしよう!?…そうだ、センセはどこに行きたいの?」
「え?…私が、ですか?…あー…」
「どこ?」
「…暗くて人気の無いところ?」
「死ねっ!林檎飴で撲殺してやる!」
「どうせ丸々一個の林檎なんて食べきれないのにねえ」
「姫林檎飴は邪道ですー」
「それにしても、なんだか今年は食べ物の夜店ばかりの気がするのですよ。気のせいですかねえ」
「うー、確かにさっきから食べてばっかりです。でもわたあめ美味しいよ食べるー?ピンクのザラメだよ!」
「いつの間に買ったんです?人の財布を使って…あまりおいたが過ぎるとチョコバナナとかフランクフルトとか口に突っ込

みますよ?」
「ご、ごめんなさいもうしないです…」
「…ああ、さっき向かいの店のどこかにスーパーボール掬いがありましたねぇ。行ってみましょうか?」
「うん!…てっ、ちょ…うぐぐぅ…!さっきより混んでる……むぐう潰れ……!!
 …あれ?…安西先生?……どこ?
 ど!どこ行ったのセンセー!?あれー!!?




―――――――――――――――




ダメって言われてたのに

迷子になっちゃいました

安西先生は目立つ人だけど

全然見付からないです

ゲタの鼻緒で足痛いし

石段に座ってたらなんか悲しくなってきて

先生どこにいっちゃったの?



「ひっく、ひっぐ…ふぇぇ〜……センセどこー?」
『どしたのボク〜?迷子かな〜?』
「ふえ?…げっ」
『げっはないじゃんー?折角迷子に声掛けてあげてんのにね〜』
『なー?』
「ぼ、僕お金なら持ってないです…」
『そんなことないでしょ、お母さんから結構貰ってんじゃん?』
「ホントに持ってないったら…そりゃあったら渡すけど……つーかなんで大学生にもなって高校生にカツアゲされなくちゃ

いけないの…?」
『いやいやそういう言い訳いいって。な?さっさと出した方が楽よ?』
『それとも痛い目みるー?』
『俺らそれでもいいんだよー?』
「だからー…」


「あーもしもしヤンキーの皆さん。その子を離してあげて下さいな」


「…うえ?」
『あ?』
『なんだお前?プリキュアの知り合いはいねーよ』
「え、私ですか?私は困っている人を助けて名を告げずに去る事を趣味としている安西聡美といいます」
「(言ってる。っていうかなにそのお面?!)安西センセ助けてー!!」
「いやー未だにいるんですねえ、こういう手合いは。てっきり絶滅したかと思ってたんですけどね」
『あー保護者さん?保護者ならちゃんと監督してないとダメじゃんなー』
『つー訳で迷子探し代ちょーだい』
「角材振り回されたくなかったらそこどいて下さいな、人の多い所でやりたくないんですよ」
『なに言ってんのかな?』
『おにーさんほっそいねー、俺らとやってもすぐ沈んじゃうよ?』
『カッコつけたいのもわかるけどねー』
「…高屋敷君」
『なに?シカト?』
『マジでやっちゃうよ?』
「あ。な、なにセンセ…」
「目を瞑っていなさいね」



何かが砕けて飛び散る音

それ以外はなにも聞こえなかった

安西先生の気配が遠ざかっていって

暫くしてから帰ってきて

まだ駄目ですよと言いながら

僕の手を引いて歩き出す

もう良いですよと言われたから

そっと目を開けてみると

笑った先生の顔がすぐそこにあった



「迷子になってはいけないと言ったじゃありませんか、先生とっても心配しました」
「ご、ごめんなさい…」
「もうはぐれてはいけませんよ。約束して下さいね?」
「うん。…あの、センセ?」
「はい?」
「……お面はどうしたの?」
「ああ、血が付いたんで捨てました」

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