ガララ


「こんにちわ安西センセー…」
「こんにちは高屋敷君。元気がありませんねえ、テスト期間が近いからですか?」
「そうなのー、レポートとか初めてでちょっと怖いよぅ」
「大丈夫ですよ、何だったら出す前に私が赤ペン入れてあげましょうか」
「うー、それ以前に期限までに書き上がるかが心配ー…ところでなに見てるのそれ?なめくじー?」
「プラナリア、という生き物ですよ。正式名称はナミウズムシといって、生物の時間に聞いたことありません?」
「うー?わかんない、忘れちゃったのかな。でもよく見ると可愛いね!矢印みたいだし目がかわいー」
「これは捕まえてきたばかりで小さいから可愛いですけれどねえ、餌をあげると、少々気持ち悪いほどに伸びてまあ、女性ウケはしません」
「もっとよく見るとなんか卑猥だ」
「君らしくもない。けれど、マニアには大変愛されている存在なのですよ?自宅で飼育している方も大勢いらっしゃいます」
「なんでー?」
「そうですねえ、やはり、再生能力が非常に高いところが面白いのでしょう」
「再生?」
「良いですか、まず二三日餌をやらないでおきます。腸を空っぽにしておかないと切った時に消化液が流れ出て、自分で自分を溶かしてしまいますからね。そうしてからこうやって冷たい氷水に晒すと、プラナリアは縮みこみます。そこをこう…よく切れるカッターで押し切るようにさくっと」
「ひどい!!なにしてるのセンセ可哀想だよ!」
「いやいや、ですからね?こうして頭と尻尾で真っ二つにしても生きているのです」
「ふえ?」
「このシャーレに入れているのが五日前に切ったプラナリア、隆彦君ですが…虫眼鏡で見てみると切断面に再生芽が確認出来ます」
「この白っぽいところが…?」
「ええ。で、こちらが十日程経った恭介君…いえ、恭介君と恭介君になりますが。二つの断片からそれぞれ頭と尻尾が再生しています。二週間もすれば完全に再生してしっかり二匹になりますよ」
キモい!!!
「ああ、君はそちら側の反応でしたか…」
「えーんえーんキモいよー!世の理系はこんなのばっかり喜んでるから触手系が発達するんだよー!!」
「だから君らしくもない。しかしまあ、キモがって泣く君が面白いので、もっとキモいものを見せてあげますね」
「いらないよ!!」
「はいこれです。これは縦半分に切ったものですが、完全に両断した訳ではなく腹の辺りまでで止めています。これによって頭が二個ある個体となりました」
「うわあああキモいキモ過ぎる!!」
「そしてこちらがそれを繰り返して頭を八本に増やした通称ヤマタノオロチです」
いやああーーー!!
「あはは」
「マジでこんなの面白がってるの…?僕には超キモいとしかしかいえないんだけど」
「うーん、理科教師でしたしねえ。まあ何やっても再生してしまうから愛憎入り混じって120の破片にしてしまった研究者さんもいるみたいですよ…あ、全部再生して120匹ましたって」
「…」
「残念ですね、君にも面白いと思って貰えると期待していたのですが…」
「う、うん…悪いけど…」
「いいえ、良いのですよ。それはそれで良いのです」
「…え?…ちょ……なに?なにそのクロロホルムのビンは!?やめてよクロロホルムで人は寝たりしないよ!!」
「良いのですよ、君も私も所詮は御伽噺の中なのですから」
「むぐぅっ!!?」



―――――――――――――――



「高屋敷君?…そろそろ意識がはっきりしてくれました?」
「う…?」
「ふむん…まあ、これくらいなら良いですかね。寒いですか?」
「寒い…体、動かな…」
「そうでしょうね。もう君は人ではありませんから、零度に近いと動けません」
「人じゃ…?」
「さっき見せたプラナリアのように、扁形動物にしてしまいました。表面的にこそ人と同じ形をしていますが、内部には骨や一部を除いて内臓も無く…ただの塊。ふふっ…気持ち悪い」
「あ、んたが…!」
「さてと、それじゃあサクサクといきましょうねぇ?君が増えるときっと面白いですよ。特別に、面白い切り方をしてあげますね」
「…?…」
「プラナリアの再生には方向性がありまして、頭だけのものには尻尾が、尻尾だけのものには頭が生えます。体内の遺伝子にそう書き込まれているのですが、これは比較的曖昧なものでしてね。切片が小さ過ぎたり、頭部の途中から切ると…頭の切片から、また頭が生えてきてしまうのです」
「……」
「ちょっと解かり難かったですか?そうですねぇ…では、君の首…首を切り落とすと、再生した時に、首から首が生えてくるのです。頭と頭がくっついた様な形になるのですよ。キュビズム的で素敵ですねえ」
「!!?」
「大丈夫、養分はちゃんと与えてあげますよ。君の意識がどうおかしくなるかは知りませんけど」
「ふざ、け…」
「他にも、あるやり方をすれば同じようなことが出来るのです。例えば手首から手首を生やしたり、脚から脚を生やしたりね。その場合は脳味噌がありませんから、きっと気色悪く蠢くでしょうねぇ…ああ、どんなに楽しいでしょう。君は老いることをもう知りませんからね、こうして切り刻んでいけば、君は決して死にません。無限に増える君を楽しみにしていますよ、高屋敷君?」

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