朝起きたら

人魚になっていました

もしかしなくても安西先生の仕業です


「って苦しい苦しい水水死ぬー!!」
「ああお早う御座います高屋敷君、ちょっと待って下さいねぇ今バスタブに水を張っていますから」
「早くして死んじゃう!つーか心底魚になっててすごくイヤなんだけど!?なにしてくれてんの?!」
「今は貝殻ブラの制作をしていますが…」
誰がそんなこと聞いたよ!!あ、マズいです安西センセ僕そろそろ死ぬ!死ぬ!!」
「ん…ではとりあえずここに…」
「なんで台所?…え、や…えー…流しー?」
「仕方ないじゃありませんか、他に水をかける所がありませんもの」
「こんな所で人魚飼ってたらバカみたいだと思うよ。ってかねーなにしてくれてるのってば?」
「だって、君が人魚になったら可愛いと思いまして」
「へー。で、これは安西先生を刺し殺したら人間に戻れるの?僕躊躇しないよ?」
「うーん…高屋敷君は胸が無いので、この大きさのホタテ貝殻ではぶかぶかですねぇ…」
「キャッチボールしようよ言葉のキャッチボールを!!」
「いやいや、聞いていましたよ。刺身にして欲しい?」
「言ってねえー!!刺身包丁を取り出すなー!涎を垂らすなー!!」
「泡になって消えるより、私の胃袋を満たす方が良いとは思いませんか?」
「泡の方が確実にいいね!ああもうここヤダここいたら食われる!お風呂ーお風呂行かせてよー!」
「そうですね、お風呂場の方が鱗が飛び散らなくて良いでしょうね」
「だから調理をしないで!ていうか戻して!人に戻して!!」
「ところで海老食べますか高屋敷君?」
「釣り針ついてるじゃん釣るなよ!」
「では網を…」
「だから漁をするな漁を!!どうしてそんなに捕らえたがるんだ?!」
「だって、ずっと前から人魚が欲しかったのですもの。絶対に逃がしやしませんよ」
「なんでさ?人魚なんか食べなくたって先生ずっと若いし死なないんでしょ?」
「ん?あー…本当のところを言ってしまうとですねぇ、食べるのが目的ではないのです」
「ふえ?」
「人魚姫って、知っていますか?」
「さっき泡とか言ってたやつ?知ってるよう。僕絵本好きだもん」
「私は子供の頃から疑問だったのです。物語のラストで、人魚姫が溶けて泡になってしまいました。とは、気体になったということですか?それとも空気を包む液体になったということですか?」
「それは知んないけど…変なこと気にするんだねセンセ」
「と言う訳で、高屋敷君の協力の下に実験してみましょう。さあ王子様ですよ人魚姫君、早くこのナイフで刺し殺そうとしつつそんなことは出来ないと悟り水面に身を投げて下さい」
「でもそれって恋しなくちゃいけないじゃん」
「して下さい」
「いやだよ!!つーか無理だし!」
「人間は努力さえあればどんな夢でも叶うのですよ」
「僕の夢じゃないしなに教育者っぽいこと言ってんの?しかもよく考えたら、それ僕死ぬじゃん」
「死んで下さい」
「いやだって!あと確か人魚姫は人間になってから王子様に会うんだよ?今僕半分魚だよ?間違えてない?」
「………!」
「…間違えてたんだね」
「…高屋敷君、ちょっとこっち来なさい」
「え、なになになに?どこ運んでるの?」
「完全閉鎖生態系生命維持装置…つまり、完全に密閉された容器内で光合成と食物連鎖で生態系が巡っていく、擬似地球という訳です」
「それが僕に何の関係があるの?…なにこのボールみたいな水槽?」
「基本的に水と少量の空気、水草、最後に魚を入れて密閉します」
「なんで僕を入れるの?!なにするの!?やだよやめてよ…!!(ドプン!)」
「永遠の閉鎖空間です。可愛い可愛い高屋敷君、作り物の世界の中死ぬまで回り続けなさい」



あれから僕は

小さな世界に閉じ込められたまま

水の中を泳いだり

顔を出して歌ったり

水草を食べたりして

安西先生は

そんな僕と僕の世界を優しく眺めています

でもね先生

偶に転がして遊ぶのは止めて欲しいな。

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