ガララ


「安西センセこんにちわー」
「こんにちは高屋敷君。それはそうと、今日はこの修飾指導室にちょっとした趣向を凝らしてみました」
「? どんなー?」
「至る所に毒物を仕掛けたのです。因みにドアノブにもある種の毒を塗っていましたから、君の癖である指しゃぶりをしたら内臓吐いて死にますよ」
「なんの因果でこんな目に!?」
「まあ今のはサービス問題ですからノーカンにしてあげますね。どうぞ、おしぼりで手をお拭きなさいな」
「うわーんもうやだ僕帰る!こんなトラップだらけの部屋に居られないよう!!」
「そう言うと思いましたよ、高屋敷君…しかし、そう言ったところで逃げられた例などありましたかねえ〜?」
「…うぐ…」
「さあ高屋敷君はどの地点で死んでくれるでしょうか?先生とっても楽しみです、私としてはあそこか、そこか、あの場所が面白い毒を仕掛けているのでお勧めなのですが…しかしこればかりは高屋敷君の自由意志ですよねえ?ふふっ☆」
「死なないって意思選択は無いの?!無理!一歩も動けないよムリー!!」
「まあまあ、君はミステリー小説が好きだったでしょう?毒を仕掛ける所なんて本に沢山書いているではありませんか。ドアノブに塗るのも在り来たりなトリックです」
「そりゃそうだけど、センセは物凄いトリッキーな所に仕掛けそうだし」
「血反吐を吐いて考えたトリックで食ってる小説家には敵いませんよ。まあゆっくり遊ぼうではありませんか。触れるだけで死ぬ毒は使いませんでしたから、ね?」
「なんでいつも命がけの遊びばっかりするんだろう…しかも、人の命で…」
「藻掻く姿は麗しい。命に固執する姿は崇高ですらある。ましてや可愛い君ならば…」
「はいはいいつもの歪んだ愛ですかー。…取り敢えず座ろっと…折りたたみ椅子借りるからねー」
「ええ、どうぞお座りなさい?ずっと座っていても良いのですよ」
「…」
「ん?」
「ちょっと………あ。うわー最悪!!この画鋲単なるイジメ道具じゃなくて毒塗ってんでしょ!?もうホント油断出来ないよ死にたくないなもう!!」
「あはは。まあよくあるイジメのようにただ画鋲の上に座らせるだけでも、十分死ぬんですけれどね。画鋲よく錆びているでしょう?あれ、皆さんが思っている以上に拙い毒ですよ」
「ああそう…んしょ……取れた…はあ、椅子に座るだけでムチャクチャ疲れちゃった」
「それはお疲れ様、まあお茶でも飲んで下さいな」
「誰が飲むか!!」
「どうしてですか高屋敷君?折角の親切を怒鳴りつけること無いでしょう…」
「親切を装った悪意だからに決まってるでしょ。なんの毒入ってんのそれ」
「ああ疑心暗鬼になった高屋敷君も面白いですねぇ。しかし、これには毒など入っていませんよ」
「ウソこけ」
「本当ですったら…ほら、一口飲んで見せてあげますよ」
「………」
「…ん……っ…ね?安心してくれました?さあ飲んで下さいな」
「……」
「高屋敷君?どうしたのです、湯飲みをどこに持っていくのです?」
「これ、昨日から飼い始めたってウサギ?」
「ええ…ロップイヤーのサマルトリケ君ですが……あ」
「………やっぱり。どうせそんな事だろうと思った、センセに普通の毒が効く訳ないじゃん」
「何の躊躇いもなく毒を飲ませましたねえ高屋敷君。なかなか興味深いです、この状況下では君も酷く残酷になれるのですね」
「もういいや、僕こっから一歩も動きませんー。下校時刻になるまでなんにもしてあげないんだから」
「そんな事ではつまらないではありませんか」
「知んないよ。先生の退屈凌ぎで死にたくないよ」
「…ではこの際言ってしまいますが…ベッドには舌が十倍に膨らんで窒息死する毒を塗ったガラス片を忍ばせてあります、この目薬にも脊椎麻痺を起こして死体がガチガチに固まる毒を混ぜていますしこの果物ナイフには片面に目玉が飛び出る毒を塗っておいたので柿を半分に割って毒の付いた方君と分けて食べるトリックですし、君は氷を齧る癖がありますのでジュースの氷の中心に強度の下剤作用で干乾びて死ぬ毒を仕込みましたし、君に食用だと偽って食べさせるつもりだったこの可愛らしい赤い実はスズランの実で一粒齧っただけで小鳥のように死んでしまいますし
もういいから!!ていうかあんまりトリックじゃないね!?」
「ああもうどれでも構いません、何の毒でも良いですからさあ早く死んで下さい高屋敷君私は君の無残な死に様を見たいのですええ死んで貰いたいのです!」
「結局それじゃん。殺したいだけじゃん」
「ほら高屋敷君この林檎は美味しそうでしょう?もちろん毒など入っていません半分こにして食べましょう赤い方をあげますよさあお食べなさい」
「僕は白雪姫かっ!!食べる訳ないでしょ」
「何故頑なに毒を口にしたがらないのですか」
「死ぬからに決まってんだろ頭腐ってんのか変態教師!殺人狂!!なんでこんな人間が社会生活営んでるんだろう?!」
「君が死ぬのを嫌がる理由が解かりません。死なないくせに」
「なに言ってんの?僕死ぬよ?いつも殺されてるじゃん」
「その『いつも』殺されているのが問題なのですが…」
「うるっさいなもう死んじゃえ!殺される前に殺してやる!!
「あ、いけません高屋敷君その果物ナイフは
ぎゃああああ手がー!!?
「柄が無いのですよ。と言いたかったのですが遅過ぎましたねぇ」
「なんで持つとこないのこれ!つーかさっきこれでナシとか剥いてたよね?!どんな手の皮してんだよ!!」
「いやー先日色々あって、気に入っていた日本刀を折ってしまったのです。折角なので果物ナイフに再利用を」
「なにがあったのかは聞きたくないから言わなくていいよ。それより手当てして!!手の平の骨見えてるから!」
「やれやれ、自分の不注意だと言うのに横柄な子です…ああ、随分血が出ていますね、貸しなさい」
「こんなもん転がしとくセンセが悪いんだもん。…ちょっとー、舐めたくらいじゃ止まる傷じゃないよー?」
「んー…高屋敷君、こんなお話を知っていますか?」
「いや、いいから手当てを」
「毒の娘。というインドの伝説です。ビーシュなる毒草…これはトリカブトなのですが、赤ん坊の頃からそれに常に触れさせていると耐性を持ち多量の毒草でも死ななくなり、終にはその娘自体が毒を持つ。美しく成長した頃に憎い相手へ贈りつけ、口付けをさせたなら…」
「あの……え?まさか…」
「そのまさかです。私は如何なる毒も効きません、つまり世界の毒の全てをこの身に蓄えた毒壷です」
「いっ…あ、あうっあのっ!放して!!もういいから…!!」
「ああ可愛らしい赤い唇ですねぇ、だらしなく涎も垂らしている…さあ高屋敷君、君に死の口付けを…」
「やめて先生お願…あがっ!?!あグぅ…ヒギッッひいぎぉぉぉぉぉぉーーッ!!!





高屋敷君は十数時間のた打ち回り

肌を黒紫色に変色させながら悪魔憑きの様に痙攣し

うわ言を呟きながら舌を噛み切り内臓を反吐して

心臓の動きが服の上からでも判る程不整脈を出し

後はまあ色々と

兎に角目を覆わんばかりの死に様でした


勿論、私は全てを見届けましたが

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