「…ねえ高屋敷君?私、蜘蛛が嫌いなのです。虫全般が嫌いですが、蜘蛛は特に嫌いです。括れた腰と蠢く脚が気色悪い

ですし、作る巣はべたべたと汚らしくてうんざりするのですよ」
「へー」
「ですが…こうしてみると、蜘蛛というのも悪くないかも知れません。こんなに可愛らしい蝶を捕らえる事が出来るのですものね」
言いたいことはそれだけか!?満足したならさっさと降ろせー!この縄解けー!!
「暴れると尚締まりますよ高屋敷君。まあ、藻掻いて涙という名の燐粉を撒き散らかしてくれても良いですが」
「うわぁんこのSM教師!女王様にでも転職しろー!!」
「どちらかといえば縄師を目指したいですねぇ」
「どこで覚えてくるのこんな縛り方?」
「援交相手から、自分の身を持って」
「…」
「しかし縛りは日本の美ですねえ。西洋は縛りよりも器具拘束が主ですから…ああ、侘寂を感じてしまいます」
「変態文化だ日本は!!もう降ろして恐いのぉー!」
「おや…いきなり吊しは恐かったですか?しかし残念ながら、そういう訳にはいきませんよ、可愛い蝶々さん」
「え?」
「私はお腹が空いた蜘蛛、君は綺麗な蝶々…脚から食べてしまおうか、頭にしようか…」
「ひ…!?い、いや、いやぁ!助けて!!」
「ああ、糸が震える。そんなに足掻いて誘っているのですか?」
「助けて、放して、食べないで、助けて、助けて…」
「いいえ。私はどこかの蜘蛛のように愛しいからと逃がしはしない。さあ蝶々さん、私のお腹を満たす為に…」
「あ…いや…いやあぁー!!!」


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「…なんて、冗談ですよ高屋敷君」
「え?」
「恐かったですか?」
「…あ、当たり前だボケー!!変態!死ねっ!!」
「よしよし、吼えるのも結構ですが余り小生意気だと降ろしてあげませんよ」
「うっさいわバカ!降ろして当然なんだからさっさとしろ犯罪者ー!!五秒以内に降ろさなかったら警察駆け込んでやるって言うか以内でも駆け込む!捕まれ!!」
「…」
「黙ってないで降ろせって言ってるでしょー!?」
「…高屋敷君」
「はあ?!」
「さようなら☆」
おごおおっっ!?!!



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【…今日は暖かいな。北海道も随分春めいてきたというものだ】
「ええ、日差しも暖かいです。タンポポも中庭に一杯ですよ」
【どれ…ああ、本当だな】
「良いですねえ学長室は。私の就職指導室の窓も中庭に面していれば良かったのに…」
【気に入らんなら直してやるが?】
「んー、それはそれで面倒です」
【…】
「あ…氷室さん、私は我侭を言い過ぎましたか?」
【む。いや、あれに気が行っただけだ】
「あれ?…ああ、蝶ですか。確かに随分舞っていますねえ」
【花も無い場所なのだがな、妙に群がっている】
「蝶はアンモニアに集まるといいますからね。もしかしたら、何か埋まっているのかも…」
【…聡美、何を埋めた?】
「ふふっ、嫌ですねえ氷室さんたら、ただの冗談ですよ?」
【ふん、何だろうがどうでも良い。兎に角もう少し深く埋めなおしてこい。犬にでも掘り返されたら面倒だ】
「あーそれもそうですねえ、解かりました、すぐ行ってきます」
【日が暮れる前に済ませろ。夜はまだ冷えるからな】
「そうします。心配して下さってありがとう御座いますね、氷室さん」

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