留年が決定した僕は

卒業式の日以来

一歩も部屋から出ていません

このまま引き篭もりになったらどうしよう


それこれもあのクソ教師の…!!


ガチャ


「久しぶりですね、ダブり君」
なにしに来やがった帰れ疫病神がー!!アンタのせいで僕の人生お先真っ暗だー!!」
「まあまあそう興奮せずに。真っ暗なのは部屋のカーテンを閉め切っているせいだと思いますよ私は」
「だからそうなったのは誰のせいだと思ってんだよ」
「さあ、誰ですか?」
「ぶっ殺すぞー!!!」
「この引き篭もりの期間の間にキャラが変わったのですね高屋敷君…まあ、その解決の為に呼ばれたのですが」
「ああん?」
「君のお母様から電話を貰いましてねえ、引き篭もりになったら可哀想なので。と。そんな訳でお外に連れ出しに来たのですよ」
「あのさあ、それマッチポンプって言うんだけど知ってる?」
「全然知りませんね」
「つーか嫌。出ない。外に出たくない出られない世間の全てが僕を負け犬だと笑っていて手首を切りたい衝動に駆られるから出られない」
「そんな事を言っては世の留年生が気の毒ではありませんか」
「僕が気の毒だよ僕がー!!」
「まあまあ、兎に角せめて布団から出てきて下さいな?カーテンも開けましょうほらほら」
「いーやーだー!!溶けるもんもう無理僕太陽に適応出来なくなったのー!!」
「吸血鬼のような事を言っている場合ではありませんよ。カビが肺に巣食う前に日光浴をしなければ」
「いやああ強姦魔ー!布団剥ぎ取ってなにする気だぁー!あっち行け帰れー!!」
「うっるさい子ですねえ…先生そろそろイラついてきました、窓から投げ飛ばしますよ」
「投げ飛ばしたいなら投げ飛ばせばいいじゃん!もういいもんこの世からさよならしたいもん!」
「何を馬鹿な、今まで何度死んだと思っています?…仕方がありませんねえ…頭の悪い君の為に、一から十まで説明してあげましょうか」
「なに?」
「よく聞きなさいなお馬鹿さん。私は君に死を恐れさせようとしているのではないのですよ…君が怯えて泣き叫ぶのは、絶対的な苦痛に他ならない」
「…う?!」
「引き篭もりとは全く詰まらぬ事をしたものですねえ?ふふふ、精神の痛みがそんなに辛いですか?全く全く愚かしい。本当の痛みとは肉体的な苦痛だけ。それも知らずに生きてきた君はああ、本当に可愛いおつむです」
「ぐっ…い、ぐぅ…!……ひい゛ぃっっ!!?」
「さあどうしましょう高屋敷君?このまま神経剥き出て引き千切られる絶対の痛みに永遠もがき苦しみますか?それとも私とお外で楽しくお茶をしに行きますか?言って置きますが私が与える肉体の苦痛には発狂だなんて逃げ道はありませんよさあどちらにしますか高屋敷君?!」
「出ます行きます外出します!!だからお願いもう止めて!!」
「そうそう、人間素直が一番です。それじゃあパジャマを着替えてお出掛けしましょうね、高屋敷君☆」


―――――――――――――――


「…世の全てが僕に死ねと囁き掛ける…目の前にある物全てが自殺の為に用意されたものに見える…この甘くてさくさくでシナモンの効いたアップルパイも喉に詰まらせて死ねと僕に囁き掛けている…」
「うーん素敵なマイナス思考ですねえ高屋敷君。いえ、どちらかと言えば鬱症候でしょうか?でもアップルパイなんかよりよっぽど効率よく死なせてくれそうなものが、もう少し先にあるじゃありませんか」
「なに?」
「私、ですよ」
「……」
「おやおや、どうして黙るのですか高屋敷君?」
「あのさあ、ホントに僕を助けに来たの…?」
「え?嫌ですねえ、まさかあんな戯言を信じたのですか?私が君に嫌がらせをしないとでも?例え君がボロクソに弱りきっていて今にも頚動脈掻っ切りそうに鬱になっていてもこの私が君に嫌がらせをしないとでも?」
「もういや…もう帰して…」
「紅茶をもう一杯如何です?」
「…もらう…」
「ケーキももう一つ注文しましょうか。一杯食べて元気になって下さいね高屋敷君、またもう一度高校三年生を繰り返さなくてはならないのですから……くっくっ…」
「この諸悪の根源がぁー!!」
「そうですね、現世代に受け継がれているこの悪全ては過去の私達一族の齎したものです。いやー結構罪深い血なんですよ、あっはは」
「…もしかして僕、触れちゃいけない事に触れた?」
「かなり」
「ぎゃああやっぱり帰る引き篭もるー!!」
「あー高屋敷君冗談、冗談ですよー。大丈夫ですからケーキを食べながら将来の指標を話し合いましょう?」
「将来ったってもう絶望的じゃん。出席日数足りなくて留年なんて、もう卒業してもどこも取ってくんないよ…」
「大丈夫大丈夫、今はもう氷河期でも受験難でもありませんもの。入院でもしてたことにすれば楽勝ですよ。適当な医者見付けて書類書かせておいてあげますよ」
「でも…」
「良いのですよ、出席日数を計算し間違えた私の責任ですしねぇ…」
「そうだよセンセのせいなんだからね!もー毎日連れ回して絶対単位やばいと思ってたもん僕!!」
「ははは、大丈夫ですよ。今年はちゃんと余裕をもってサボらせますから☆」
だからそれを止めろっつってんだろ不良教師がー!!





家に送られる道すがら

一日最低2時間は外出するようにと

根性焼きをされながら約束させられて


家の前でそれじゃあまたと手を振った時

安西先生がなにかを思い付いた様に

ニヤリと笑ったみたいに見えたのは

多分夕日のせいなんだと思いたい

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