「寒いですねー先生」
「ええ、寒いですねぇ高屋敷君。北海道の春は遠いです」
「ねーねー安西センセー？寒いとさあ、あったかいもの食べたくならない？…僕は食べたくなるなあ……食べたいなー…」
「ふん？…それで？」
「うーだからぁ…今の僕はおでんが食べたいんですよぅ。ねー食べましょセンセー？」
「やれやれ、遠回しに言わずさっさとそう言いなさいな。食べ盛りなのですから、幾らでも食べさせてあげますよ」
「やたー♪さっすが安西センセですお金持ちですボンボンですー！好き好き♪」
「調子の良い子ですねぇ…で、どこのおでんにします？セブンですかセイコマですかサンクスですか？」
「んー、コンビニおでんはヤですよー。だってあれ不衛生ってなんかで読んだですもん」
「ああ、蓋をしていないからですか？」
「うん、あと廃棄時間になってもコンビニの店長は廃棄しちゃダメだって言うらしいですよ。バイトしてる友達に聞

いたんですよう」
「へえ…」
「だからコンビニおでんじゃないのがいいですよ」
「というと、…自炊ですか？」
「え？おでん屋さん行きましょうよう。ガッコ近くの橋の下の」
「おでん屋さん？」
「うん。おでん屋さん、行ったことないの？」
「…そう…ですね。言われてみれば、そういった飲み屋系の店には行きませんねえ…日本酒よりも洋酒が好みですし」
「僕はよく行きますよ、父さんについてくの。あ、でもお酒は飲みませんよ！エラいでしょ！」
「未成年が飲酒しないのは当然です。何を威張っているのですか？当たり前の事でしか自慢出来ないとは、随分とまあ可哀相な人生ですねぇ」
「ふあぁーーん！！あーん！うえぇーー！！」
「あーあー分かりました分かりました…謝りますから早く泣き止みなさい、道で立ち止まるのも道行法違反ですよ？」
「ひんんっ…ひく…ふえぇ……」
「よしよし、良い子ですね…。さあ、行きましょうか」
「んく……う…うん…」

「…へえ、こういう所なのですか」
「うん。もう注文していい？んーと僕は大根と白滝とちくわとー」
「…」
「安西先生安西先生、餅入り巾着は口に詰め込んで拷問道具にするものじゃないよ、食べ物だよ」
「鍋を見ていただけなのによく解かりましたねえ」
「がんもどきを目に乗せるのとどっちか迷ったけどー」
「はんぺんは気道を塞ぐのに使えそうですね」
「あ、おじさんおつゆ多めにしてねー♪」
「お酒もらえますか、銘柄は何でも良いです」
「センセはさーおでんでなにが好き？」
「そうですねえ…タコとか卵とか…」
「あ、タマゴいいよねー！僕も好き、おじさんタマゴとタコー！！あとバクダンとお豆腐とつみれとーツブ貝」
「よく食べますねえ高屋敷君。奢ってあげるのですからお酌くらいしなさいな」
「いいよー。はい」
「高屋敷君、お酌というのは両手で持ってするものですよ。あと零すのは最低です、もっと気を付けなさい」
「いいじゃんぐちゃぐちゃ言わないで飲みなよ！」
「そういう訳にはいきません。ペナルティですよ高屋敷君…さあコップ一杯飲み干しなさい」
「バッ…教師が生徒にお酒勧めないでよ！！」
「これが宴会でのしきたりです、これが出来なければ大人ではありませんよ」
「僕まだみせーねんだもん、飲まなくていいんだもん」
「…良い子過ぎてつまりませんねぇ」
「いい子でなにが悪いのさ。僕いい子だもん、生徒の前でお酒飲むような不良教師とは違うもん」
「その台詞、相模先生の前で言ったら死んでますよ」
「つみれおいしー」
「あ、オヤジギャグを思い付きました」
「自分で言う人って最近多いよね。自虐で誤魔化すんだよね」
「言っても良いですか？と言うよりもやっても良いですか？」
「え？行為の伴うギャグなの？」
「はい、しかも高屋敷君の協力が必要です」
「…なに？」
「トックリの高屋敷君にトックリのセーターを着せるんです」
「…トックリ？」
「今風に言うとタートルネックです」
「うんそれは解るけど…トックリの僕？人のトックリって？」
「両腕が付け根から無い方を、その形状をして徳利に喩えるんですよ。蔑称ですので公で口にしてはいけませんよ」
「なめてんの！？本当もう僕をなんだと思ってるの？！」
「そうだ、お酒を内臓満杯にぶち込んでおけば名実共に徳利に…！」
「どうして目をキラキラさせてるの？！どこから出したのその鉈は？！放して放してやめて目撃者がいるところでそんな事したらいくら安西先生でも監獄行きあべばばば！！！」
「すみません、お会計お願いします。…え？…あはは、そうですねえ……ええ、家に帰って飲み直そうと思います、この素敵なトックリで☆」