「あーひまーー!センセひまー!!」
「またそんな格好ゴロゴロと…ベッドから落ちても知りませんよ」
「だってーダラダラする以外にやることないー!!」
「あ、ベッドの下を覗いちゃ駄目ですよ」
「え?なんで?」
「変なものが潜んでいるのです」
「なんだよ変なものって!?!怖いよ!!」
「危害は加えませんから大丈夫ですよ。多分ですけれど」
「憶測じゃんなんとかしてよ怖いー!!」
「三日くらい前に存在に気が付いたのですが…結構可愛いですよ、おやつをあげると妙な粘液を垂れ流して不思議な声で鳴いて喜ぶのです、その粘液は芳しい香りがして…」
「なんの生き物なんだよ怖いよー!良い匂いがしても怖いー!!」
「そうなんですよねえ、見た目がグロテスクなのが難点で…君が見たらきっと卒倒でしょうね」
「そんなに?!」
「でも可愛いことは可愛いのですよ?…よしよし、トモヒロくーん?ポッキーですよ、お食べなさいなー」
「僕の名前をつけて可愛がるなー!!」
「そんな、私はえこひいきをしない主義です。ちゃんと君にもポッキーをあげますよ」
「そこに怒ってるんじゃないよ!!…まあセンセはグロい生き物可愛がる趣味があるのは知ってるよ。でも名前付けて可愛がるにしてもさー、もっと他に名前あるでしょ考えてよー」
「外見が可愛い君の名前をつければ、見た目が可愛くないこの子も可愛くなれるかと…」
「お世辞はいいから、別のにして」
「それは無理です」
「なんで!?」
「もうトモヒロで覚えてしまったのです。呼んだら返事をするくらいに」
「どうしてそうなる前に変えなかったの…!」
「君が嫌がるとは思わなくて…」
「ウソ吐け。どうせ嫌がらせでつけたんでしょ」
「嫌ですねぇ高屋敷君たら、疑心暗鬼も程々にして下さいな?」
「はあ〜…僕、もう今日は帰る…なんか食べられそうだし、トモヒロ君に」
「そんな事しませんよ?昨日そこら辺の生徒を捕まえて突っ込んでみましたが、押し返されてしまいましたもの」
「それはそうなのかもしれないけどベッドの下からちらちら見える粘膜の細長い触手みたいなのが怖いからイヤなの!じゃーねバイバイ!!」



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「おはよー安西先生、今日もお仕事?」
「おはよう御座います高屋敷君。教師は長期休暇中も忙しいものですよ」
「うー、でも僕達三年も講習受けなくちゃいけないんだけどねー…」
「十時からでしたっけ?」
「そうなのー」
「受験生なのですから、頑張って下さいな」
「はぁーい」
「…ところで、トモヒロ君の調子がおかしいのですよ…」
「元からおかしいじゃん、存在が」
「そんな言い方をしないであげて下さい、今日の朝から動かなくて、触ってみるとカチカチで、返事もしてくれない

のです…呼吸音は微かにするのですが、心配で心配で」
「なんかいつの間にかものすごく愛着湧いてるね…」
「トモヒロ君からは何かこう…高屋敷君と同じ波動を感じるのです、まるで三年間いたぶり可愛がってきた君のような…」
「それはセンセが僕の名前付けたからでしょ!あといたぶってたら可愛がってることになんないしね!?」
「本当なのですよ高屋敷君、本当に君と同じ気配が感じられるのです」
「あーもーいーやどーでもー。僕講習行くから、先生はお仕事とトモヒロ君の看病してて。じゃーねバイバイ!」


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「ただいまー!講習終わったよ安西センセお昼ご飯食べに行かないー?…え?」
「お疲れ様です高屋敷君。お昼は出前を取ってありますよ」
「え、や、え?ちょ…なにそのセンセの横にいる僕は?またロボ作ったの?クローン?」
「はは、少し落ち着いて下さいな高屋敷君」
「落ち着く訳ないじゃんか!また変なことしたんだろ!!」
「さあねえ、無意識下でしていたのかも知れませんが…」
「もう焦らさなくていいから早く言って!なにしたの!?」
「だから私は何もしていないのですが、トモヒロ君がこうなってしまったのです」
「…はあ?」
「先ほどの体調不良はどうやら変態の為のサナギ状態だったみたいでしてねえ…ちょうど君が出て行って十分後くらいに這い出てきたのです」
「……はぁ〜……だから僕の名前なんか付けるなって言ったのに…」
「良い子なんですよ?口は聞けないようですが、よく懐いてくれますしニコニコしていて可愛いですし」
「でも僕の偽者じゃんか。頭に変な触手二本も残ってるしー」
「ああ、引っ張ってはいけませんよ高屋敷君。そこを触られるのは嫌らしいのですから」
「ホントだ、泣いちゃった」
「ですから放してあげて下さいと…可哀想でしょう」
「むー僕とおんなじ顔で泣くから腹立つー!マネっこのくせしてなにさー」
「どうして喧嘩をするのですか。二人とも止めて下さい」
「痛ぁ!なにこの子反撃してきたー!えい!!」
「止めなさいと言っているでしょう、二人とも離れなさい」
「べーだ!」
「全く全く…仲良くしなくてはいけませんよ、兄弟のようなものでしょう?さ、お昼にしましょうね」
「こんなの弟じゃないもん」
「良いからお食べなさい。ほら、トモヒロ君も……おや」
「ほらね、ほらね!僕そんなにベタベタ零したりしないもん、お箸の使い方上手だもん!」
「仕方が無いでしょう、君と違ってトモヒロ君は今までお箸を使った事が無いのですよ…良いのですよトモヒロ君、

スプーンで食べましょうね?」
「やっぱりマネっこなんてその程度だよねー。僕なんてこんなに上手だもんねー」
「…お味噌汁を零していますよ」
「わー!?」
「はあ、手のかかる子が二人になってしまいました…」
「そいつ人じゃないじゃん!」
「良いから君は机を拭きなさいな」
「イヤだよ布巾もティッシュないもん!こいつに舐め取らせろ!!」
「止めなさいと言ってるでしょう!トモヒロ君を机に押えつけるんじゃありません」
「じゃあどっかからか拭くもん持ってきてよ。安西先生がね」
「…私をパシリにしようとは…相当怒ってるのですねえ」
「早くしないと零れた味噌汁の量が増えるよ、トモヒロ君とやらの涙でさ」
「解かりましたよ、私の負けです。今持って来ますから」
「べーだ!!」




ガララ、ピシャン


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ガララ




「ただいま帰りましたよ高屋敷君…ん?」
「…」
「おや…トモヒロ君……便利な触手ですねえ…」
「…」
「へえ、人体を貫ける位の硬度にもなるのですか」
「…」
「こらこら、血塗れでくっついてきてはいけませんよ?」
「…」
「高屋敷君…は、もう死んでますか」
「…」
「……まあ、こっちの方が可愛いから良いですかね」

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