ガララ


「こんにちわ安西センセ…なにこれ?」
「ああ、人形です」
「センセそっくりじゃん、びっくりした」
「そりゃあそっくりに作らなければ意味がありません。私型のダッチドールですから」
「そんなもん学校に持ち込むな!!」
「出来たらすぐ見せて下さいと言っておいたので、もって来て下さったのですよ」
「なんでこんなもん作らせたのさ」
「最近は年末で忙しくて、客の相手をしている暇が無くて…代わりをさせようかと」
「…」
「んー、でも微妙にそっくり過ぎて腹立つのですよね。この私が良い様にされるなんて腹立たしい…やっぱり止めますかねえ」
「じゃあこれいらないの?」
「そうですね、もう必要性は」
「じゃあちょうだい」
「……」
「違うそういう目的じゃないです!!」
「では何故欲しがるのです?」
「う?なんかそっくりで面白いし、おもちゃにするの」
「まあ構いませんけれど、外部に流出しないようにして下さいね」
「はーい」


「♪そっくりだけどーちーがーうー そっくりだけどーちょっとーねー どこが?どこが?違うーの? よく見てご

ーらーんんーー」
「高屋敷君…頬に赤い渦巻きを書くのを止めて下さいな」
「かわいーのに?」
「…」
「髪も結ぶのー」
「いや、あの…女装は悪くないのですが、その…ピンクのボンボン付きのヘアゴムは……ああ、その上二つ結びで」
「次はー次はねー」
「た、高屋敷君、やっぱり返して下さい」
「なんで?」
「良い様にされている抵抗しない自分を見るのは辛くて」
「僕はね先生、人形と違って自我があるのにいつもセンセの玩具として大っ嫌いなロリ女装服着せられたりしてるんだよ?」
「………」
「だからいいよねっ!」
「高屋敷君、もう…もう止めて下さい…子供に弄ばれるのがこんなに恐ろしいとは思いませんでした…」
「ガチャ。ただいまー。おかえりなさいあなた、ごはんできてるわよ」
「止めて下さい高屋敷君!私はまだ家庭を持つ気などありませんしそれにどうして妻役がカーネルサンダース人形なんですか?」
「きょうのごはんはスキヤキよー。わあ、ぼくのだいこうぶつじゃないか、ありがとうゆきえー」
「…高屋敷君…本当に男子高校生なのですか?」




――――――次の日―――――――




ガララ



「こんにちわ安西センセ…なにこれ?」
「ああ、人形です」
「どうして僕にそっくりなのさ、鏡かと思った…は!?まさかいかがわしい人形にしたんじゃないだろうな?!」
「生徒をそんな事に使う教師はいませんよ。ただの人形です。歌も歌いますし、ゼンマイ仕掛けで動く上物ですけれど」
「いつの間に…」
「私のダッチドールを作らせた時、同じ人形師に頼んだのです」
「結局ダッチドールの兄弟かあ…」
「歌を歌わせてみましょうか?上手に歌いますよ。ほら、高屋敷君?お歌を歌って下さいな」

「……♪啼いてーごーらーんー クックー きれーいなこーえーでー…」

「…どうして僕にそっくりな声なの?」
「♪もう誰もーわたーしーのー背なーかの螺ー旋をー…」
「ん?さあ、どうやっているのでしょうねえ。内部のことまでは流石に聞いていません」
「…」
「♪貴方ーの願ーいーはーどんなことーでーもー…」
「高屋敷君?…どうしました、気に入りませんでしたか?」
「ううん…そうじゃない、けど…」
「なら良かった。じゃあ一緒に遊んであげてくれますか?アヤトリが出来るのです。それにお絵かきもとても上手ですし…そうそう、なぞなぞも…」


お人形の『高屋敷君』は

本当に僕そっくりで

僕が笑うと一緒に笑う

寸分違わぬ笑顔は鏡みたいで

ふらりと伸ばした手を掴んでくれて

僕と同じ体温に顔を上げると

にっこりと微笑んでいて

僕も釣られて同じ笑顔を返した


僕達が遊んでいる姿を

目を細めて見ていた安西先生が

ふと小さく呟いた


「ところで、どっちが    の高屋敷君でしたっけ?」


どっちが?

どっち?

僕は…

ああ

わからない

僕は



「おはよう御座います、高屋敷君」

「おはよーございます」
「おはよーございます」

「今日も寒いですねぇ」

「雪が降ったもんね」
「雪が降ったもんね」

「そうだ、そろそろ二人ともゼンマイが切れてしまいますね」

「うん」
「うん」

「こちらにいらっしゃい、高屋敷君。螺旋を巻いてあげますよ」

「ありがとー」
「ありがとー」




キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ…
キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ、キリキリ…

 BACK